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退職勧奨の手順
退職勧奨の手順1~3・事前準備
退職勧奨の手順4~6・面談の手順や後日の対応
退職勧奨の手順0・事前検討、補足説明
退職勧奨の手順0・事前検討、補足説明
退職勧奨の前に十分に検討・対処しておきましょう
まず、そもそも使用者が対象労働者に退職して欲しい理由は何か、退職勧奨をする前にすべきことはないか、事前に十分に検討・対処しておく必要があります
使用者としては対象労働者に一刻も早く退職して欲しいかもしれません
しかしながら、【退職勧奨の手順4の補足・退職勧奨の際に注意すべきこと】で述べたように、執拗な退職勧奨はできず、退職勧奨が適法にできる機会は限られています
そして、一旦、退職勧奨を明確に拒否されてしまえば、退職強要・違法となることを覚悟で再度退職勧奨をするか、やむなく解雇するかどうかを検討せざるを得なくなります
特に不当解雇として法的紛争に発展した場合、敗訴可能性が高く、時間や労力を取られるほか、弁護士費用や和解金で合計数百万円もの出費になることがあります
したがって、退職勧奨は、使用者が労働契約を終了させる貴重な手段であると言っていいでしょう
ところで、対象労働者は、使用者が対象労働者に退職して欲しいとに考える理由を理解できていないことも多いですし、退職することで当面の収入が途絶えることになります
退職勧奨を奏功させるためには、退職勧奨をする以前の段階で、対象労働者が退職も仕方ないと思える程度に、使用者が対象労働者に退職勧奨をする理由を十分に理解させておく必要があります
したがって、その前提として、使用者自身が退職勧奨をする理由を十分に整理しておく必要があります
また、いきなり退職勧奨をするのではなく、口頭の指導や注意をするとともに、適切に懲戒処分や配置転換等を下して、問題行為の是正や改善を図り、対象労働者の理解の下地を作っておく必要があります
事前に十分に検討・対処しておくべき事項
問題行動と就業規則抵触の抽出・整理
対象労働者の入社から現在までの間の行動について、具体的に問題とすべき行為を抽出するとともに、その行為が具体的に抵触する就業規則の規定を検討します
また、問題行為が就業規則に抵触するものとして、既に使用者が対象労働者へ実施した指導や処分について、具体的な日付や方法、資料や書類を確認・整理します
なお、もし具体的な問題行為や就業規則の具体的な規定の抵触が抽出・整理できないようであれば、退職勧奨をすることは時期尚早というべきでしょう
指導処分の実施状況や改善状況の確認
次に、問題行為や就業規則抵触に関する指導や処分が適切であったか、指導や処分により問題行為の是正がなされたかどうか、他の方法はないか、検討します
なお、口頭注意以外に使用者が対象労働者へ指導や処分を実施したことがないのであれば、退職勧奨をする前に、まずは文書による指導や懲戒処分を検討することをお勧めします
戒告や譴責はしたことがあるだけであれば、退職勧奨の前に、減給、出金停止、降格等の懲戒処分や、配置転換による適性の見極めを図ることも検討しましょう
また、一定程度の対処をしてきたのに是正が見込めないようであれば、使用者から対象労働者へ勤務に関する自己評価や今後の目標等を確認することもしてよいと思います
退職勧奨の可否・当否の検討
そして、指導や処分、その他の対応を尽くしたにもかかわらず、問題行為の是正が見込めない場合には、退職勧奨に踏み切ることになるでしょう
もちろん、使用者は、対象労働者に、退職勧奨に応じることが見込める程度に、退職勧奨をする理由を十分に理解させているか、という観点でも検討が必要です
なお、退職勧奨以前の事情を理由に懲戒処分や配置転換等の不利益処分をするのであれば、退職勧奨したものの退職を拒否された場合にするのではなく、退職勧奨以前に先行して実施しておく必要があります
退職勧奨に関する補足説明・解雇と退職
解雇と退職の違いと退職勧奨
法的には、「解雇」と「退職」は、区別され、法的規制とリスクが異なります
退職勧奨による退職は、「解雇」ではなく、「退職」に分類されます
解雇の法的紛争のハイリスク
解雇とは、使用者が労働者に対して労働契約を一方的に解約することを言います
解雇は、労働者の意思決定に基づかないものであり、労働者の生活に重大な影響を及ぼすため、労働法上の規制があります
すなわち、解雇には、労働基準法19条(労災休業期間や産前産後休業期間等の解雇制限)、20条(解雇予告)の解雇規制や、労働契約法16条の解雇権濫用規定が適用されます
そのため、解雇は、解雇無効等として、法的紛争となる可能性が比較的高いものです
解雇に関する補足
なお、解雇には、普通解雇、懲戒解雇があります(整理解雇は普通解雇の一種です、ほかに諭旨解雇・諭旨退職もありますがここでは省略します)
普通解雇は、能力や適格性の欠如、規律違反等を理由とする解雇であり、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合でなければ、無効とされます
懲戒解雇は、懲戒処分として行う解雇であり、解雇の中で最も要件が厳しいものです
しかも、普通解雇でも解雇予告手当を支払う必要があるだけで即時解雇をすることができますし、懲戒解雇でも当然に退職金全額を不支給とすることにはなりません
そのため、法的には、懲戒解雇は、ハイリスク・ローリターンな選択肢であるため、業務上横領等の業務中の犯罪行為がなされた場合でない限り、選択する実益が乏しいことが多いでしょう
整理解雇は、会社が経営上の理由から行う解雇であり、普通解雇よりも要件が厳しいものです
整理解雇には、①人員削減の必要性、②解雇回避努力(整理解雇という人員削減手段の選択の必要性)、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性(事前の説明や協議)という4つの要件(要素)が求められます
最近だと、コロナ禍における売上減少を理由にした整理解雇が検討されることも多いようですが、人員削減の必要性が認められるとしても計画や手続が拙速であるとして、整理解雇を無効とした裁判例もあります
なお、時々、解雇予告手当を支払えば会社は社員を自由に即時に解雇できると勘違いされている方もいらっしゃいますが、これでは要件と効果が逆転しており、誤りです
即時解雇する場合には解雇予告手当を支払う必要があるだけで(未払は罰則あり)、解雇予告手当を支払うことで即時解雇が正当化されるわけではありません
解雇がなされた場合、「会社都合による失業」にあたるため、労働者は給付制限期間なしに雇用保険から失業手当が受給されます
解雇がなされた場合、「事業主の都合による離職」にあたるため、使用者は雇用保険から雇用調整助成金等を受給できなくなることがあります
退職の法的紛争のリスク
退職とは、労働者が使用者に対して労働契約を一方的に解約することや、使用者と労働者の間で労働契約の解約を合意することを言います
退職には、解雇規制は適用されません
そのため、退職(特に自主的な退職)は、法的紛争となる可能性が比較的低いものです
もっとも、退職勧奨による退職は、使用者が労働者の意思決定に働きかけるものであるため、一定程度、法的紛争となるリスクがあります
なお、退職がなされた場合(退職勧奨による退職を除く)、「自己都合による失業」にあたるため、労働者は雇用保険から失業手当を受給する際、給付期間制限を受けます
また、退職がなされた場合(退職勧奨による退職を除く)でも、「事業主の都合による離職」にあたらないため、雇用調整助成金の受給要件に直接の影響はありません
退職勧奨に関する補足説明・退職勧奨と退職無効等
退職勧奨とは、使用者が、労働者に対し、労働契約の解約の申込をしたり、(労働者から使用者への)労働契約の申込をするよう勧誘・推奨したりすることを言います
退職勧奨は、自主的な退職(労働者から使用者に対して労働契約の解約を申し入れて、使用者が労働者に対して労働契約の解約を受け入れることで、合意により労働契約を解約する等)ではありません
詳細を省略しますが、退職勧奨による退職にも民法の意思表示に関する規定が適用されるため、退職勧奨による退職が無効・取消の対象となったり、退職勧奨が不法行為とされたりすることがあります
実際にも、従業員が会社から「今すぐにこの場で退職届を書かなければ、懲戒解雇されるがよいか」等と恫喝されたため、一旦はその場で退職届を提出したが、その数日後には従業員から会社へ退職届の撤回を申し入れたものの聞き入れられなかったため、法的紛争に発展して、退職届は錯誤や強迫により取り消されるべきものであることを前提に、約1年分の解決金の支払を要することになった事例もあります