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この記事は2024年10月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
令和6年11月1日の施行のフリーランス法については、皆様も、最近、耳にすることが増えてきたのではないでしょうか。
近年の働き方改革でフリーランスという働き方も取り上げられるようになったものの、フリーランスは企業から雇用されていない以上、企業と個人の取引上の力関係の差が明らかであるものの、雇用関係の法令による規制のほとんどが及ばないことから、報酬未払やハラスメント等が問題とされてきました。
そして、令和3年3月26日の4省庁合同のガイドラインの制定を経て、今般、フリーランス法の制定・施行されるにことになりました。
フリーランス法では、フリーランスについて従業員を使用しない個人法人(役員2名以上の法人を除く)と広範に規定したため、中小企業もフリーランスへ業務を発注していることとなり、規模や業種を問わずに遵守する必要があります。
中小企業の健全な発展の契機としていただければと思い、書いた次第です。
(参考)
フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組 | 公正取引委員会
【1 フリーランス法と下請法を知ろう】
【2 取引条件明示(契約書)で紛争予防へ】
【1 フリーランス法と下請法を知ろう】
法律に守られる側から法律を守る側へ
(フリーランス法と下請法)
・フリーランス法と下請法のそれぞれの規制内容の主な項目や比較は、比較表のとおりですので、ご一読いただけると幸いです
・下請法(昭和31年7月施行・「下請代金支払遅延等防止法」)は、一言で言えば、親会社から下請事業者を保護する法律です
具体的には、納品後検査の有無にかかわらず60日以内に下請代金を支払う(遅れれば年利14.6%)、契約書を交付する等を定めています
下請法の適用は改正等もあり複雑で、親会社と下請事業者の資本金の比較や業務内容によって、下請法の適用の有無が異なります
なお、建設業を営む者同士の間の建設工事については、建設業法が適用され、下請法は適用されません
・フリーランス法(令和6年11月施行・「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)は、委託元からフリーランスを保護する法律です
具体的には、下請法と概ね同じ規定のほか、委託元からフリーランスがハラスメントを受けないようにすること等、労使関係に近い規制もあります
フリーランス法の適用範囲は広く、従業員を使用している事業者(法人個人を問わない)から、従業員を使用していない事業者(法人(役員1名のみ)個人を問わない)へ、物品の製造加工、情報成果物の作成、役務の提供について、業務委託をすると、フリーランス法が適用されます
(法律に守られる側から法律を守る側へ)
・下請法においては、一概には言えないものの、中小企業は大企業から法律によって守られる側にあったように思われます
これに対し、フリーランス法においては、フリーランスが大企業や中小企業から守られることとなり、中小企業は法律を守る側に立つことになります
しかも、フリーランス法は中小企業の規模や業種を限定していませんから、規模や業種を理由に無視することができなくなっています
・もっとも、フリーランス法における規制は、下請法の書面明示義務や報酬支払期限等や、パワハラ防止法(令和4年4月施行「労働施策総合推進法」)のハラスメント防止措置として、中小企業にも求められていたことでもありますので、一つ一つ対応していくことで、対応できるはずです
【2 取引条件明示(契約書)で紛争予防へ】
取引条件明示(契約書)は将来のお互いのためです
(取引条件明示義務の内容)
・フリーランス法でも下請法でも、委託者(親事業者)は受託者(下請事業者)に対して業務委託した場合には、直ちに、取引条件について、書面等により、明示する義務があります
・フリーランス法における取引条件の明示の必須事項
給付・役務提供(業務)の内容、期限、場所
報酬の額、支払期日(原則・納品後60日以内)
委託者と受託者の商号・名称等
(検査をする場合、検査完了日)
(現金以外の方法で支払う場合、支払方法など)
・委託時点で未定事項がある場合、未定事項について定められない理由と定める予定期日を、追加で記載する必要があります(確定後、確定事項、確定事項と当初の明示との関連性を、記載する必要があります)
・再委託の例外の支払期日(元委託者から再委託者への支払後30日以内となるような支払期日)を定める場合、再委託である旨、元委託者の商号・名称等、元委託者から再委託者への支払期日を、追加で記載する必要があります
(給付・役務提供(業務)の内容の具体化・明確化等)
・給付・役務提供(業務)の内容は、基本かつ重要な事項です
往々にして業務の内容について書面等で明確にしないまま取引に進みがちで、納品時等に委託者と受託者の間で食い違いが発覚します
・委託者が受託者へ不完全履行である等として、受領拒否、報酬不払・減額、やり直し等を求めることになりそうですが、書面等で明確ではない状況で受領拒否等すると、フリーランス法違反(5条1項1号等)となりかねません
・トラブルの予防や正当な権利行使等のためにも、給付・役務提供(業務)の内容の具体化・明確化は必須と言ってよいでしょう
・知的財産権が関連する場合には、知的財産権の譲渡・許諾の範囲について、きちんと取り決めておいた方がよいでしょう
・経営コンサルのように内容が不定形なものについては、外形的に判断できるような指標(会議の内容・方法・頻度等)を定めた方がよいでしょう
・ITのように成果物の見通しや期待について当事者間にズレの発生しやすいものについては、仕様書や試作品等を書面として添付すべきでしょう
(報酬の額や支払期日の具体化・明確化等)
・報酬の額について、原則として具体的な金額(**万****円等)を明示することになりますが、具体的に算定できない場合には、明確な算定方法を記載したうえで、確定次第、明示すべきことになります
・その他、本体と消費税等を明示したり、知的財産権の譲渡があるならその対価となる具体的な金額を明示したり、実費負担があるなら実費の範囲や明確な算定方法を記載したうえで確定次第明示したりする等があります
・報酬の支払期日について、具体的な金額(****年**月**日)を明示することになります(例えば「納品後30日以内」等の記載は、単独で確定できないので好ましくなく、すくなくとも確定次第、明示すべきです)
(委託者と受託者の商号・名称等)
・委託者と受託者の商号・名称等を特定して明示することは当然のようですが、昨今はインターネット等を通じた様々な取引方法があり、必ずしも登記上の商号・所在地や住民票上の氏名・住所等を把握しないこともあるようですが、トラブルの予防や解決という観点からは、双方で把握した方がよいでしょう
・なお、時々、フリーランスの方が、中小企業へ、法人設立前であるのに設立済みを装って、契約締結を求めてくることもあり、確認が必要です
(やや応用編・その他の契約条項)
・フリーランス法における取引条件明示義務の範囲外の事項ですが、契約書を交わすのであれば、せっかくなので、各種条項を入れたいところです
(印紙を貼る必要があるかどうかも、よく検討しましょう)
・個別の注文(契約)の成立について、注文書と注文請書を必要とするのか、注文書だけで注文請書なしでも成立とするのか、明確にするとよいでしょう
・成果物の制作・納品については、不可欠な目的か(請負)、それ自体は目的ではないのか(準委任)、明確にするとよいでしょう
・再委託については、個人的な信頼関係によるものか、一定程度の規模や一定期間の対応が必要な等で、再委託の可否等を定めるとよいでしょう
・契約期間、自動更新の有無や条件、中途解約の可否や条件については、将来のお互いのためにも、是非とも定めておきたいところです
・債務不履行時の損害賠償の範囲については、委託者と受託者で意見が対立しがちだが、規模や業種や内容を踏まえて適切に制限するとよいでしょう
・秘密保持や反社会的勢力排除(暴排条項)については、定型的なものでもよいので、万一に備えて、入れておくべきでしょう
・委託者が受託者に対して指揮命令することは、実態は雇用となり、偽装業務委託や偽装請負であると評価されることがあるので、注意が必要です