顧客等の中小企業に対する名誉毀損の成否の境界

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この記事は2023年2月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

久々の顧問企業法務通信の今回は、定期的にご相談のあるインターネット上の誹謗中傷(特に顧客の企業への口コミ)について、書いてみました。

インターネット上の誹謗中傷が問題視されるようになって久しいですが、この分野の相談事案は、弁護士へ、複数の観点で専門性を要求しています。

まず、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示の場合、IPアドレス等の保管期限の関係で、ネット掲示板等のコンテンツ・プロバイダ(CP)を相手方とした東京地裁への仮処分命令申立て、発令後のインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)への請求等を速やかに行う必要があります。

また、海外CPの場合、申立書等の翻訳や外国送達の対応等が要求されることが通常でしたし、CPやISPの反応の想定が必要です。

(なお、2022年、海外CPも日本における代表者の登記を実施されるとともに、新しい法的手続が整備されたので、今後、多少は対応しやすくなりそうです。)

次に、一口に「誹謗中傷」と言っても、それが法律的に名誉毀損や侮辱等にあたり権利侵害であることが明白か、という問題に対応する必要があります。

ご相談時に弁護士が「名誉毀損にあたらない可能性が高い」と回答することで皆さまに驚かれることが多い部分であり、今回の顧問通信のテーマとしました。

皆さまが顧客や社員等からインターネット上で批判等された場合、それが法律的に見て名誉毀損にあたるのか、判断材料の一つとしていただけると幸いです。

(参考文献)

「最新事例でみる 発信者情報開示の可否判断」(清水陽平、中澤佑一ほか)

「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第4版」(清水陽平)

「名誉権侵害(名誉毀損)」(https://kandato.jp/rights/meiyo/)(神田知宏)

【1 名誉毀損と社会的評価の低下】

名誉毀損の判断構造を把握しましょう

【2 名誉毀損と「事実摘示型」・「意見論評型」】

名誉毀損は「事実摘示型」と「意見論評型」で判断方法が異なります

【3 名誉毀損の成否の具体例】

いろいろありますので、ご参考までに一部を紹介します

【1 名誉毀損と社会的評価の低下】

名誉毀損の判断構造を把握しましょう

(名誉毀損とは)

・企業に対する誹謗中傷

法律的には、企業に対する名誉毀損(名誉権侵害)が成立するか、という形で考える必要があります(名誉毀損が認められそうであれば、削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求が検討可能になります)

・名誉毀損とは

不特定多数の者に対し、事実を述べて、他人の社会的評価を低下させることを言います(「事実」には虚偽と真実の双方を含みます)

・名誉毀損の成否は、社会的評価の低下の有無 → 事実摘示型と意見論評型の区別 → 判断基準の検討 → (反真実性の立証等)の順に検討します

・以下では、予約アプリ上のマッサージ店に関する顧客の口コミ投稿を例に、検討してみましょう

(「社会的評価の低下」の有無)

・社会的評価の低下アリの例:「このお店は絶対に行かない方がいい」

・社会的評価の低下ナシの例:「このお店は男性しか店員がいない」

・社会的評価の低下の有無

一般読者の普通の注意と読み方を基準に判断することとされています

・なお、表現が具体的か抽象的か、社会的評価の低下があるかどうか、最終的に名誉毀損が成立するかどうかは、いずれも別の問題です

・設例では、予約アプリを使用してマッサージ店を探している通常の顧客が、その口コミを読んだことにより、お店に対し、悪い印象を持つかどうかで、社会的評価の有無を判断することになります

・「このお店は絶対に行かない方がいい」という表現

抽象的な表現ですが、通常の顧客がお店に悪印象を持つでしょうから、社会的評価の低下があると考えます(なお、単なる個人の感想にすぎず、通常の顧客は気にしないとして、社会的評価の低下がないとする考え方もあります)

・「店員が男性しかいない」という表現

具体的な表現ですし、一部の女性顧客等にとって低評価となる可能性もありますが、「店員が男性しかいない」こと自体は違法ではないですし、大半の顧客にとって悪印象というわけではなく、社会的評価の低下はないでしょう

【2 名誉毀損と「事実摘示型」・「意見論評型」】

名誉毀損は「事実摘示型」と「意見論評型」で判断方法が異なります

(「事実摘示型」と「意見論評型」の類型の区別)

・事実摘示型の例:

「90分で予約したはずなのに60分で勝手に施術を切り上げられた」

・意見論評型の例:

「力加減が好みに合わず、下手だと思った」

・両者の区別は簡単ではありませんが、基本的に、「証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項」について、主張していれば「事実摘示型」となり、主張していなければ「意見論評型」となります

・「90分で予約したはずなのに60分で勝手に施術を切り上げられた」

証拠等の確保の可否は別として、予約した時間はアプリの予約履歴等から、施術した時間はお店の入居ビルの玄関の防犯カメラの映像等から、判断できますので、「事実摘示型」となるでしょう

・「力加減が好みに合わず、下手だと思った」等

店員の力加減が顧客の好みにあったか、顧客にとって店員の施術は下手だったか等については、顧客自身の主観(好み)によるところが多く、通常、証拠等から客観的に判断できないため、「意見論評型」となるでしょう

(「事実摘示型」における判断基準)

・事実摘示型の例:

「90分で予約したはずなのに60分で勝手に施術を切り上げられた」

・虚偽となる具体的な事実を述べた場合、通常、名誉毀損が成立します

・これに対し、次の3つの要件を全て満たした場合、通常、名誉毀損は成立しません(なお、実務的には①②が問題になることはあまり多くありません)

①公共の利害に関する事実について、②専ら公益を図る目的の下、③事実が真実であった場合(または真実と誤信したことに相当な理由がある場合)

・「90分で予約したはずなのに60分で勝手に施術を切り上げられた」

不特定多数が来店するお店の顧客に対する債務不履行に関する事実であり、通常、表現内容が真実であれば、名誉毀損は成立しませんし、反対に、表現内容が虚偽であれば、名誉毀損が成立します

もっとも、顧客がお店へ嫌がらせをする目的で投稿した場合等には(なお、嫌がらせ目的の立証は容易ではないですが)、表現内容が真実であったとしても、「専ら公益を図る目的」がなく名誉毀損が成立することがあります

(「意見論評型」における判断基準)

・意見論評型の例:

「力加減が好みに合わず、下手だと思った」

「衛生的ではなく、不快」

「接客態度が悪すぎるので、即刻退職・閉店すべき」

・意見論評型では、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱した場合(または前提事実の重要部分の虚偽の場合)、名誉毀損が成立します

・具体的には、人格否定的な表現が執拗になされたような場合です

・「力加減が好みに合わず、下手だと思った」や「衛生的ではなく、不快」は、それだけでは、名誉毀損は成立しないものと思われます

・「接客態度が悪すぎるので、即刻退職・閉店すべき」は、何度も繰り返し投稿されたような場合に、名誉毀損が成立する可能性があります

・なお、上記投稿も、投稿者の企業に対する名誉毀損は成立しないときでも、投稿者の店員個人に対する侮辱は成立する余地があります

【3 名誉毀損の成否の具体例】

(顧客の中小企業に対する名誉毀損の成否の具体例)

・口コミは、具体的な事実の主張でなく意見論評型に分類されることが多く、人身攻撃に及ぶほどでない限り、名誉毀損は不成立となりやすいです

・google口コミ「不衛生で従業員の態度も悪く底辺な残念な印象を受けました。食品を扱うなら、もう少し衛生面に気を配って欲しい。」 → 不成立

・ネット掲示板「絶対やめた方がいいです」「会社の方針がおかしい」「施主に対して上から目線」「訴訟が多い様子」等 → 不成立

・ネット掲示板「何でも追加といってビックリするくらい高い」「脅迫じみたことまでいってくる」等 → 成立(「事実摘示型」)

・googleマップ「直してほしいとお願いした場所が治療したふりだけをされて全く変わってなかった」「ヤブの上に詐欺」 → 成立(「事実摘示型」)

((元)社員の中小企業に対する名誉毀損の成否の具体例)

・前後の文脈や背景から具体的な事実の主張(事実摘示型)と構成したうえで、反真実性を証明できれば、名誉毀損が成立することもあります

・不動産口コミサイト「クリスマス会、やると思っているんですか。社員もお金もないんですよ。やる余裕なんてありません(笑)。」 → 成立

・ネット掲示板「サビ残、かなりブラック」等 ※ 企業が裁判所へサービス残業がほぼないことを証拠等で証明できた事例 → 成立

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