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この記事は2022年9月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
今回は、ECサイトへの記載が必須な「利用規約」「特定商取引法に基づく表示」「プライバシーポリシー」等について、各種法令と関連づけて書いてみました。
私もネット通信販売・ECサイト事業者の顧問弁護士をしておりますが、ご相談の内容も昨今の法規制も、多岐・広範にわたっており、簡単ではありません。
例えば、特定商取引法の改正により、令和4年6月1日以降、ECサイトの最終確認画面の表示に不備があれば、注文を取消可能となってしまいます。
また、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法の成立により、モール型の大手ECサイトの出店者に対する適正化要請も、強まることが予想されます。
さらに、最近では、ステルス・マーケティングについて、法規制される動きがあり、サービスによる口コミ投稿の誘引も見直しが迫られるかもしれません。
他方で、ネット通信販売・ECサイト事業者としては、集客や顧客対応が重要であるため、利用規約作成や規制対応は後回しになりがちではないかと思います。
また、IT事業者としては、自社型ECサイトの構築業務を行う場合、確認措置や最終確認画面の表示規制等の知識が必要になることもあると思います。
紙面の都合もあり些か雑多な記載となりましたが、ネット通信販売・ECサイトに関連する事業の一助としていただくとともに、普段皆さまが消費者として利用されているECサイトを取り巻く法律事情を知っていただければ、幸いです。
【1 利用規約と民法・消費者契約法】
利用規約は、正しく使いこなすことで、紛争を予防できます
【2 表示と特定商取引法・消費者契約法】
令和4年6月1日以降、ECサイトの表示規制が強化されています
【3 ネット通販・ECサイトに関するその他の法令】
いろいろありますので、ご参考までに一部を紹介します
【1 利用規約と民法・消費者契約法】
利用規約は、正しく使いこなすことで、紛争を予防できます
(利用規約とは)
・利用規約とは、通信販売・ECにおいて、契約書の代わりとなるものです
・消費者のECサイトにおける商品の購入は、法的には売買契約の締結を伴いますが、通常、商品の購入の都度、契約書を交わさず、予め事業者が定めた利用規約に消費者が同意したものとして、商品を購入します
・もし利用規約を記載しない場合、法令のみに従って判断されますので、契約内容等に事業者と消費者で見解相違が発生したとき、対応に苦慮します
・利用規約に契約成立時期について商品発送時とする(代金受領後速やかな商品発送)と記載することで、在庫切れに対応しやすくなる等が考えられます
・利用規約に記載すべき事項の例
① 利用規約自体について(適用範囲や変更方法等)
② 契約成立時期について(注文確認時か、商品発送時か等)
③ 義務履行方法について(代金支払時期、商品引渡方法等)
④ 返品や契約取消事由について(消費者都合の返品の可否や期限等)
⑤ 損害賠償義務について(損害賠償責任の有無、範囲、予定金額等)
⑥ アカウント管理等について(なりすましによる発注の取り扱い等)
(利用規約と民法・消費者契約法)
・利用規約はサイトに記載しただけでは当然には契約内容に組み入れられず、民法548条の2第1項は次の2つの方法を規定しています
① 利用規約を契約の内容とすることに「同意する」をクリックさせる
(会員登録時、利用規約全文を表示して「同意する」をクリックさせる
注文時、最終確認画面(利用規約のリンクあり)を表示して「利用規約に同意して注文する」をクリックさせる 等)
② 予め利用規約を契約の内容とする旨を事業者が消費者へ表示する
(サイトトップ画面、商品説明画面、カート画面、最終確認画面等の各画面において、利用規約へのリンクを貼るとともに、「ご注文前にお読みください」「利用規約に従ったご注文となります」等と表示する
・また、利用規約に事業者が消費者よりも一方的・不合理に有利なものを記載しても、消費者契約法8~10条で無効とされかねませんので、注意が必要です
・例えば、事業者の損害賠償責任の全部免除、消費者の契約解除時の平均額を超える違約金、消費者の不作為による契約成立等は、無効とされます
【2 表示と特定商取引法・消費者契約法】
令和4年6月1日以降、ECサイトの表示規制が強化されています
(「特定商取引法に基づく表示」)
・特定商取引法11条により通信販売の際に義務付けられている表示です
・事業者名、代表者名・責任者名、所在地、電話番号、メールアドレス、商品の販売価格、販売価格以外に必要となる費用(配送料・梱包料等)、支払方法、代金の支払時期、商品の引渡時期、返品・キャンセルに関する特約等
・「商品の販売価格」等の多岐にわたるものは、「各商品のご購入ページにて表示する価格」等の具体的な内容の表示先を表示することが一般的です
・「返品・キャンセルに関する特約」に何も表示しないと、特定商取引法15条の3により、商品到着後8日間以内の返品が可能になる可能性があります
(「購入手続完了後の商品の不良以外の返品はお受けできません」等を商品説明画面や最終確認画面等にも表示しておく必要があります)
(最終確認画面における「申込を受ける際の表示」)
・特定商取引法12条の6により、令和4年6月1日以降、事業者は、「最終確認画面」において、消費者が「注文確定」の直前段階で次の各契約事項を簡単に最終確認できるように、表示する必要があります
通販事業者の皆さんへ 最終確認画面や申込書面の表示方法の参考となる資料を掲載しています。 | 消費者庁
・特定商取引法15条の4により、「最終確認画面」において、次の各契約事項につき、不実の表示、不表示、誤認させるような表示があると、契約の取消原因となっていますので、注意が必要です
・①分量、②販売価格・対価、③支払の時期・方法、④引渡・提供時期、⑤申込みの撤回、解除に関すること、⑥申込期間(期限のある場合)
(トップ、商品説明、カート等の各画面における広告表示)
・消費者契約法4条により、事業者のウェブサイトにおける商品に関する表示や記載も、内容や態様によっては、契約の取消原因にあたることがあります
(重要事項の不実告知、断定的判断の提供、重要事項についての不利益の不告知、不安をあおる告知、霊感等による知見を用いた告知 等)
・また、いわゆる打消表示(「個人の感想です」等の表示)をしたからと言って、当然に消費者契約法4条(あるいは景品表示法5条)の適用を免れることにはならないことにも、注意が必要です
消費庁「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」(PDF)
【3 ネット通販・ECサイトに関するその他の法令】
いろいろありますので、ご参考までに一部を紹介します
(「プライバシーポリシー」と個人情報保護法)
・個人情報保護法21条1項により、個人情報取得の際に義務付けられています
・ECサイトを通じて事業者が消費者から個人情報を取得する以上、取得情報と取得方法、利用目的、利用中止要請方法、第三者提供、共同利用、開示請求方法、訂正方法、問い合わせ窓口、変更手続等を明示する必要があります
(確認措置と電子消費者契約法)
・電子消費者契約法は、ネット通販・ECサイトにおける特例を定めたものです
・契約締結の際、錯誤(内心と契約内容の食い違い)があった場合、錯誤に重大な過失があったときでも、電子消費者契約法3条本文では(民法95条3項を適用しないものとすることで)原則として契約を取り消せるとしています
・ECサイトでは、注文が画面上で「注文する」ボタンのクリックにより簡単に行えるため、不注意による注文にも取消を認めたものと考えられます
・もっとも、3条但書で、注文する意思の有無や注文内容について「確認措置」を取ることで、原則として取り消せないこととしています
・自社型ECサイトを構築する場合、「確認措置」が取れているか(注文内容や注文確定となることがわかりやすく表示されているか)、注意しましょう
(製造物の輸入と製造物責任法)
・事業者が他社から商品を仕入れたうえで、事業者が消費者へ販売した商品に欠陥があった結果、例えば、購入者以外の者が商品の欠陥を原因として怪我をした場合、事業者は購入者以外の者(怪我をした者)に対し、損害賠償責任を負うのか、という問題です
・事業者と購入者以外の者との間には契約関係がないので、通常、法的責任は負わないようにも思われます(道義的な責任は別とします)
・しかしながら、事業者が海外から商品を輸入した場合、製造物責任法2条3項1号の輸入製造業者として、損害賠償責任を負うので、注意が必要です
(取引デジタルプラットフォーム消費者保護法)
・取引DPF消費者保護法3条で、楽天市場等の取引DPFが、出店者に対し、出店者と消費者の間の紛争解決のための連絡や調査等を促す義務が、4条で取引DPFの出店者に対する責任の免除(要件あり)が、定められています