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この記事は2021年10月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
いつもご相談ありがとうございます。
弁護士は企業の皆さんへ契約書を作成するように助言することは多いですが、契約書作成の際に必要なはずの印紙税について、助言することは多くありません。
印紙税に関する判断は税務署にお尋ねいただくことが最善だからでしょう。
しかし、顧問先企業様から私へ印紙税のご相談をいただくこともあります。
さらに、意外なところで印紙税を見落としていることもあるかもしれません。
例えば、店が客に簡単な注文書(少額未定のため代金の記載はなく「靴の修理を依頼します」程度)を書いてもらうだけでも、印紙税が課されることがあります。
(この場合、代金は少額未定であるとして書かないにしても「但し、代金は1万円未満とする」と記載することで、印紙税を回避することができるでしょう。)
不納で過怠税が課されると本税部分も損金計上できなくなるのも痛いですね。
今回は中小企業が押さえておきたい「印紙税法」について書くことで、契約書を作成する際に気をつけるべきことを皆さんと共有できればと思います。
(参考資料)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/mokuji.htm
法的思考が身に付く 実務に役立つ 印紙税の考え方と実践(鳥飼重和著)
【1 印紙税の基礎知識】 印紙税の概要を確認しましょう
【2 印紙税の納付方法】 印紙の基本的な納付方法やちょっとした節約方法など
【3 印紙税の課税文書の判断】皆さんが取引に使用している書類は課税文書?
【1 印紙税の基礎知識】
印紙税の概要を確認しましょう
(印紙税とは)
印紙税法に基づき、契約書や領収書等の課税文書に課される税です
文書の作成者が納税する義務を負い、文書の作成者が課税文書に印紙を貼り付ける方法(貼付後に押印や署名により消印する)により納税します
(なぜ契約書等の文書に印紙税が課されるのか)
税は担税力(税を負担する能力)があるものに課されることとされています
一定以上の所得には担税力があるので、所得に応じた所得税が課されます
酒類は嗜好品であり担税力があるので、酒類には酒税が課されます
契約書等の文書の背景には取引があり、一定規模以上の取引(ひいてはその契約書等の文書)には担税力があるので、契約書等の文書にはその取引内容や取引金額等に応じた印紙税が課されることとされています
(印紙税の課税文書) 印紙税法別表第一参照
① 不動産売買契約書、土地賃貸借契約書、金銭借用証書、運送契約書等
② 請負契約書等 / ③ 約束手形等 / ④ 株券等
⑤ 合併契約書等 / ⑥ 定款 / ⑦ 継続的取引基本契約書等
⑧ 預金証書 / ⑨ 倉荷証券等 / ⑩ 保険証券 / ⑪ 信用状
⑫ 信託契約書等 / ⑬ 債務保証契約書等
⑭ 金銭寄託契約書等 / ⑮ 債権譲渡契約書等
⑯ 配当金領収書等 / ⑰ 売上代金領収書等
⑱ 預金通帳等 / ⑲ 消費貸借通帳等 / ⑳ 判取帳
中小企業としては、作成する文書が、主に契約書(1、2、5、7、12~15号)や領収書(17号)に該当するのか、注意すべきことになります
課税文書の正確な判断には、印紙税法基本通達を参照する必要があります
自社の契約書に実は印紙が必要ではないか、税理士へ確認してもいいかも?
(印紙税を納付しなかった場合)
印紙税の不納には過怠税や罰金刑の制裁があり、過怠税は本税部分を含めて3倍または1.1倍となり一切損金計上できなくなる点に注意が必要です
契約書に印紙貼付がなくとも通常は契約の成立や効力に影響がありません
(不動産売買契約書に印紙貼付がないと登記申請ができない等の支障あり)
【2 印紙税の納付方法】
印紙の基本的な納付方法やちょっとした節約方法など
(印紙税の納付方法~印紙の貼付と消印)
例えば、A社とB社の間で3000万円の土地の売買契約を締結することとして、土地売買契約書2通を作成してそれぞれに記名押印するとします
印紙税額は1通につき2万円となりますので、それぞれに印紙を貼ります
法的には合計4万円の連帯納付ですが、通常は折半することが多いでしょう
それぞれの貼付後の印紙押印または署名により消印をすることになりますが、消印はA社とB社の両方でもよいですし、いずれかだけでも構いません
(印紙税の節約方法~コピー・電子化・誤貼付)
例えば、A社とB社の間で土地売買契約書1通のみにそれぞれ記名押印して印紙を貼付消印した後、コピー1通を作成するとします
この場合には、コピー(白黒推奨)には印紙を貼付する必要はありません
(但しコピーに更に記名押印等すると印紙が必要になることがあります)
例えば、A社とB社の間で業務委託契約書を電子メールやFAXのみでやりとりして現物をやりとりしない場合にも、現行法上、印紙は不要です
印紙を誤って貼り付けた場合、消印前なら綺麗に剥がすことで再利用でき、消印後なら税務署に申請することで印紙税額が返還されるようです
(印紙税の要否~国等や外国企業との取引)
例えば、国とA社の間で工事請負契約書2通を作成してそれぞれに記名押印してそれぞれ1通ずつ保有する場合、A社が国へ交付する1通のみA社のみが印紙を貼付消印することになります(国は印紙を貼付消印しない)
国のほか、地方公共団体や印紙税法別表第二記載の非課税法人も、同様です
例えば、日本国内A社と外国企業の間で商品売買契約書2通を作成してそれぞれに記名押印してそれぞれ1通ずつ保有する場合、契約書について国内で作成するなら印紙必要、国外で作成するなら印紙不要となります
契約書に作成地も記載しておくと、後々問題になりにくいと思います
(印紙税の軽減措置等)
不動産譲渡、建設工事請負に関する契約書について、軽減措置があります
コロナ公的融資について、非課税措置や還付があります
時限的な措置ですので、正確には国税庁ウェブサイト等の確認が必要です
【3 印紙税の課税文書の判断】
皆さんが取引に使用している書類は課税文書ですか?
(課税金額の判断~金額の記載のない場合)
例えば、A社が客Bへ金額の記載のない靴の修理の依頼書の書式を渡して、客Bが署名押印してA社へ提出するとします
この場合、金額の記載がないものの靴の修理という請負契約書の課税事項の記載があり、通常、客Bが依頼書を提出すればA社は依頼を受けることから、この依頼書は2号課税文書である請負契約書にあたるものと考えられます
そして、金額の記載がないため、課税金額は200円となります(印紙必要)
ただし、金額の記載がなくとも、「ただし、代金は1万円未満とする」等の記載があれば、非課税文書となります
実際の代金が1万円未満の簡易な依頼書でも、金額の記載がないうえ「但し、代金は1万円未満とする」等の記載もなければ、課税されます!(要注意)
(課税文書の判断~金額が複数記載されている場合等)
標記について、若干複雑ですので、ここでは割愛します
なお、印紙税法基本通達第5節に具体例が多数記載されています
(課税文書の判断~注文書と契約書)
例えば、A社がB社へ3000万円でシステム開発を委託することとして、B社書式で記名押印なしの注文書にA社が記名押印して提出するとします
この場合、文書の標題が「注文書」だったとしても、記載内容や取引状況によっては、「契約書」と評価される場合があり、注意が必要です
事前にA社とB社で「注文書を交付すれば、一定期間内に拒否しない限り、契約が成立する」と合意していた場合、注文書は契約書と評価されます
普段からA社とB社で同種同等の取引をしていた場合、A社が注文すればB社が請け負うことが見込まれるため、注文書は契約書と評価されるでしょう
(課税文書の判断~不動産等以外の売買)
売買については、「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業」以外であれば、原則として、1号課税文書にあたりません
しかしながら、実際には、それほど単純ではないため、注意が必要です
例えば、A社が客Bへ自動車を販売する場合、部品取付作業やリサイクル料預託があるときには、注意が必要です
自動車の売買に関する部分の印紙税は課されませんが、部品取付作業の関連部分は2号の請負契約書として、リサイクル料預託の関連部分は15号の債権譲渡契約書として、金額次第では印紙税が課される可能性があるためです
(部品取付作業費と預託リサイクル料は明確に記載しておきましょう)
さらに、例えば、B社がA社から継続的に自動車等の動産を仕入れる場合の売買取引基本契約書も、7号課税文書となりますので、注意が必要です
(課税文書の判断~建物賃貸借契約書)
建物賃貸借契約書は、通常、課税文書にあたらず、印紙は不要です
ただし、駐車場賃貸借契約等、土地賃貸借契約が含まれている場合、土地賃貸借契約書に関する部分は1号課税文書にあたるので、印紙が必要です
(課税文書の判断~工事請負契約書)
工事請負契約書は2号課税文書にあたります(建物、設備等を問わない)
(課税文書の判断~請負と委任(システム開発))
例えば、A社がB社へ3000万円でシステム開発を委託することとして、A社とB社の間で業務委託契約書を作成するとします
契約書にシステム開発を「委託する」と記載されていたとしても、実際の契約内容によっては、2号の請負契約書と評価される場合があります
システム開発を「委託する」という記載から、課税文書ではない(準)委任契約書である可能性もありますが、契約書のその他の記載や取引慣行から、システムの完成という仕事の完成が要求されている場合、実際の契約内容は請負契約であり、2号課税文書である請負契約書と評価されるでしょう
以上のように、契約書に「委託する」と記載されている場合でも、2号課税文書と判断される可能性が十分にあります
なお、SES契約書は、通常、人工で代金が発生する準委任契約ですので、課税文書にあたりませんが、成果物が要求される場合にはやはり要注意です
(課税文書の判断~請負と委任(システム保守))
例えば、A社がB社へ月額10万円でシステム保守を委託することとして、A社とB社の間で業務委託契約書を作成するとします
システム保守契約は、民法上は準委任契約と評価される可能性がありますが、不良個所発生時に単なるアドバイスを超えて補修作業が伴うことの合意は、印紙税法上は請負契約と評価されるものと考えておくべきでしょう
なお、請負にあたる場合には、同時に、「継続的取引の基本となる契約書」にあたることが多いものと思われます
仮に準委任の場合には、印紙税施行令26条1号の規定にあたらないため、「継続的取引の基本となる契約書」にもあたりません
(課税文書の判断~代理店)
例えば、A社がB社へ歩合制で販売代理を委託することとして、代理店契約書を作成するとします
なお、A社とB社の間で売買は発生せずにB社が見込客CをA社へ取り次ぐというものと、A社とB社の間で売買が発生するものが考えられます
販売代理店契約書は、販売取次にしても販売にしても、通常、印紙税施行令26条1号の規定する「売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負」や同2号の規定する「売買に関する業務」に関する継続的基本契約書にあたるため、通常、課税文書にあたります
(課税文書の判断~領収書)
「金銭又は有価証券の引渡しを受けた者が、その受領事実を証明するため作成し、その引渡者に交付する単なる証拠証書」は課税文書にあたります
通常、領収書は課税文書にあたり(ただし、5万円未満は非課税)、「仮受取書」、「振込済みのお知らせ」等も課税文書に該当します
なお、領収書は、本体金額、消費税額、源泉徴収額に区分して書いておくと、消費税を含めずに源泉徴収額も控除した金額で算定できて、節約になります
(課税文書の判断~「営業に関しない受取書」)
なお、例外的に、公益法人、人格のない社団(権利能力なき社団)、農業従事者等、医師等、弁護士等、病院等が発行する領収書は、「営業に関しない受取書」とされるため、課税文書に該当せず、印紙は不要とされています
(印紙税法第5条別表第一17号、印紙税基本通達別表第1・17号文書)
(課税文書の判断~「売上代金以外の……受取書」)
借入金、担保物、寄託物、割戻金、配当金、保険金、損害賠償金、各種補償金、出資金、租税等の納付受託金、賞金、各種返還金は、「売上代金」ではなく「売上代金以外」にあたります
借入金等の受取書(領収書)も、課税文書(5万円未満は非課税)ですが、売上代金の領収書と異なり、記載金額が5万円以上であれば課税金額は一律200円とされています
以上、契約書を作成する際に気をつけるべきことを皆さんと共有したいと思い、印紙税法について書いた次第です
なお、上記と税務署の判断に齟齬がある可能性があることをご了承ください
印紙税に関する最終確認は税務署にお尋ねいただくことが最善だと思います