この記事は2020年12月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
今年も1年間ありがとうございました。
前回は、令和2年12月1日から会社従業員や個人事業主等が新型コロナウイルス感染症の影響により失業・減収~債務返済困難となった場合に「自然災害債務整理ガイドライン」が適用されることとなった話を書きました。
今回は会社経営者に関するお話です。
会社経営者にとって、会社の金融機関からの借入について、経営者個人が金融機関へ保証することは半ば当然となっていますが、保証人の切替を嫌忌して事業承継が進まなかったり、経営者個人が資産を失うことを嫌忌して会社の早期再建が進まなかったりする等、経営者保証は事業承継や事業再建の阻害要因でもあります。
経営者保証に関する改正民法における規定や、経営者保証ガイドライン(経保GL)による保護について、紙面の許す限りで整理してみました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
【1 令和2年4月1日施行改正民法と経営者保証】
改正民法は事業用融資に「第三者」が保証人になることを強く規制
他方で、経営者等が保証人になることに関する法的規制は乏しい
【2 新規融資や既存融資の経保GLによる保護】
一定の場合に経営者の個人保証を求めないこととしています
経営改善時や事業承継時に経営者の個人保証が解除できることも?
【3 経保GLによる保証債務の整理】
登録支援専門家等の専門家の支援を受けながら進めましょう
一定の場合には一定期間の生計費や華美でない自宅を残せることも?
【1 令和2年4月1日施行改正民法と経営者保証】
改正民法は事業用融資に「第三者」が保証人になることを強く規制
他方で、経営者等が保証人になることに関する法的規制は乏しい
(令和2年4月1日施行の改正民法の概要)
法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html
(改正民法:事業用融資について「第三者」が保証人になる場合)
例えば、A社がX銀行から事業のために融資を受けようとした際、第三者を保証人として立てるよう要望されたことから、A社の代表者aの妻wの父pに保証人となってもらうこととした場合には、事前にpが自ら公証役場で「保証意思宣明公正証書」を作成しておく必要があります(改正民法465条の6)
事前の公正証書の作成を通じて、不利益の内容等を検証して、事業用融資について第三者が安易に保証人となることを予防するものです
(改正民法:事業用融資について経営者等が保証人になる場合)
もっとも、改正民法の上記規制は、事業用融資について経営者等が保証人となる場合には、適用されません(なお、この場合でも契約書は必須であり(民法446条2項3項)、根保証契約であれば契約書における極度額の定めも必須です(改正民法465条の2))
例えば、A社がB銀行から事業のために融資を受けようとした際、A社の代表者a、取締役b、過半数の株式の保有者cは、経営者やそれに準ずる者(ここでは「経営者等」と言います)であり、事業用融資について経営者等が保証人となる場合には、事前に公正証書を作成しておくことまでは必要ありません
改正民法は、事業用融資について経営者等が保証人になる場合には、上記規制を適用しないものとしており、保証する旨(根保証契約の場合には極度額の限度で保証する旨)の書かれた契約書に、経営者等が保証人として署名押印して金融機関に提出すれば、保証契約は有効に成立することになります
要するに、改正民法だけでは、未だに経営者等は金融機関からに十分に保護されていない状態ですから、今後も、経営者が金融機関から保護されるよう、平成25年12月から存在する経営者保証に関するガイドライン(経保GL)による保護や活用が重要になります
【2 新規融資や既存融資の経保GLによる保護】
一定の場合に経営者の個人保証を求めないこととしています
経営改善時や事業承継時に経営者の個人保証が解除できることも?
(経営者保証に関するガイドライン(経保GL)の概要)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201503/4.html ※政府広報
https://hosho.go.jp/guideline/ ※ 経保GL事務局
(対象) ※ 経保GL3項
主債務者が中小企業であること(個人事業主も含みうる)、保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者等であること(第三者保証も含みうる)
主債務者である中小企業と保証人であるその経営者等が、弁済に誠実で、債権者の請求に応じて負債の状況を含む財産状況等を適切に開示していること
主債務者と保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
(中小企業や経営者等に求められる対応) ※ 経保GL4項(1)
①法人と経営者の関係の明確な区分・分離②財務基盤の強化③経営の透明性
(金融機関に求められる対応) ※ 経保GL4項(2)
① 「保証を求めない融資」や「代替的な融資手法」の検討
停止条件や解除条件付保証契約、流動資産担保融資、金利上乗せ 等
② やむを得ず、経営者保証を求める場合の対応
経営者保証の必要性や見直しの可能性について丁寧・具体的に説明すること、適切な保証金額を設定すること、「保証債務履行時にはガイドラインに則して適切な対応を誠実に実施する」旨を保証契約に規定すること
(既存融資における経保GLによる保護) ※ 経保GL6項
金融機関は、前経営者の個人保証を後継者に当然に引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得たうえであらためて保証契約の必要性を検討する/新経営者と保証契約を結ぶ場合は、適切な保証金額とし、丁寧かつ具体的に説明する
金融機関は、前経営者から保証契約の解除を求められた場合、前経営者が実質的な経営権・支配権を握っているかどうか、既存債権の保全状況、法人の返済能力などを考慮して、適切に判断する
【3 経保GLによる保証債務の整理】
支援専門家等(弁護士、会計士等)の支援を受けながら進めましょう
一定の場合には一定期間の生計費や華美でない自宅を残せることも?
(対象) ※ 経保GL3項、7項
主債務者が中小企業であること(個人事業主も含みうる)、保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者等であること(第三者保証も含みうる)
主債務者である中小企業と保証人であるその経営者等が、弁済に誠実で、債権者の請求に応じて負債の状況を含む財産状況等を適切に開示していること
主債務者と保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
主たる債務者が、法的債務整理手続または準則型私的整理手続の申立てを、保証人の準則型私的整理手続の申立て以前(または同時)に行っていること
債権者にとっても経済的な合理性が期待できること
保証人に破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないこと
※ 法的債務整理手続…破産、民事再生、会社更生、特別清算
※ 準則型私的整理手続…中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン(https://www.zenginkyo.or.jp/news/2005/n2801/※半沢直樹で帝国航空が使用した再建手法)、特定調停等
(手続) ※ 経保GL7項(2)
保証債務の整理には準則型私的整理手続を利用する
(なお、主たる債務の整理に当たって、準則型私的整理手続を利用する場合、保証債務の整理についても、原則として、準則型私的整理手続を利用することとし、主たる債務との一体整理を図るよう努める)
(主な効果) ※ 必ず効果を得られるわけではありません
・ 保証債務の相当程度の圧縮・減免 ・ 経営者個人の資産の一部残存
・ 経営者による経営関与の継続
(対応) ※ 経保GL7項(3)
主たる債務者、保証人及び対象債権者は、保証債務の整理に当たり以下の定めに従うものとし、対象債権者は合理的な不同意事由がない限り、当該債務整理手続の成立に向けて誠実に対応する
① 一時停止等の要請への対応
以下の全ての要件を充足する場合には、対象債権者は、保証債務に関する一時停止や返済猶予(以下「一時停止等」という。)の要請に対して、誠実かつ柔軟に対応するように努める
原則として、一時停止等の要請が、主たる債務者、保証人、支援専門家が連名した書面によるものであること
一時停止等の要請が全ての対象債権者に対して同時に行われていること
主たる債務者及び保証人が、手続申立て前から債務の弁済等について誠実に対応し、対象債権者との間で良好な取引関係が構築されてきたと対象債権者により判断され得ること
② 経営者の経営責任の在り方
一律かつ形式的に経営者の交代を求めないこと
具体的には、経営者の帰責性等を総合的に勘案し、準則型私的整理手続申立て時の経営者が引き続き経営に携わることに一定の経済合理性が認められる場合には、これを許容することとする
(ただし、保証債務の全部又は一部の履行、役員報酬の減額、株主権の全部又は一部の放棄、代表者からの退任等はありうる)
③ 保証債務の履行基準(残存資産の範囲)
対象債権者は、保証債務の履行に当たり、保証人の手元に残すことのできる残存資産の範囲について、必要に応じ支援専門家とも連携しつつ、保証人の保証履行能力や保証債務の従前の履行状況等をを総合的に勘案して決定する
なお、対象債権者は、保証債務の履行請求額の経済合理性について、主たる債務と保証債務を一体として判断する
なお、残存資産の範囲を決定するに際しては、以下のような点に留意することとする。
a)保証人における対応
保証人は、安定した事業継続等のために必要な一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅等について残存資産に含めることを希望する場合には、その必要性について、対象債権者に対して説明することとする
b)対象債権者における対応
対象債権者は、保証人から、a)の説明を受けた場合には、上記の考え方に即して、当該資産を残存資産に含めることについて、真摯かつ柔軟に検討することとする
④ 保証債務の弁済計画
⑤ 保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱い
情報開示等の全ての要件を充足する場合には、対象債権者は、保証人からの保証債務の一部履行後に残存する保証債務の免除要請について誠実に対応する