中小企業こそ気を付けるべき悪質商法

この記事は2019年6月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

いつも、ご相談、ご活用いただきまして、ありがとうございます。
今回は、昨年秋~今年春にかけて一部で話題となっている無料求人広告被害や、その他に中小企業が気を付けるべき悪質商法について、書かせていただきました。
中小企業の経営者の皆さんは、悪質商法というと、一般の消費者が一部の悪質な事業者からお金を騙し取られることを想像されるのではないでしょうか。
たしかに、通常、悪質商法というと、悪質業者が、高齢者等に対し、投資すれば必ずもうかる等と言ってお金を騙し取る等が典型だと思います。
ところで、一般の消費者が一部の悪質な事業者から悪質商法被害を受けた場合、全てではありませんが、特定商取引法や消費者契約法等と言った法律で救済されることがあります(クーリング・オフ制度や消費者の取消権など)。
しかしながら、一般の事業者(法人・個人を問わない)が一部の悪質な事業者から悪質商法被害を受けた場合、基本的に特定商取引法や消費者契約法等と言った法律の適用がなく、簡単には救済されませんので、日頃からの自衛が重要です。
これを機に悪質商法を知って安易な契約を予防していただければと思います。

【1 無料求人広告】
無料でウェブサイトに当社求人広告を表示してくれると聞きましたが……

【2 ホームページリース】
月々のリース料で当社ウェブサイトを作成してくれると聞きましたが……

【3 売上アップコンサル】
月額数十万円で効果的な売上アップを指導してくれると聞きましたが……

(参考)中小企業庁:事業者間トラブル事例
https://www.chusho.meti.go.jp/faq/soudanjirei.html

【1 無料求人広告】
無料でウェブサイトに当社求人広告を表示してくれる?
(事例)
・ 中小企業であるA社は、求人広告会社であるB社から、電話で「インターネットによる求人広告を3週間無料で掲載できるサービスを利用しないか」と勧誘されました
・ 後日、申込書等が送られてきて、よく読まずに記入押印して返送しました
・ すると、たしかにB社のウェブサイトにA社の求人広告が表示されるようになったが、これと言った求人に繋がらず、A社も「無料だからそんなものだろう」と思い特に気に留めないでいました
・ しかし、3週間が経過した直後、B社から、A社へ、十数万円もの金額の請求書が届き、「無料キャンペーン期間3週間が経過して、契約が自動更新で有償プランとなったため、広告料を請求します」と記載されていました
・ そこで、申込書等を見直すと、細かい字だがたしかに「無料キャンペーン期間中に書面で解約を通知しないと、契約が自動更新されて有償プランとなります」等の記載がありました
・ 電話勧誘の際に十分な説明はなかったし、求人広告も役に立つものと思えなかったので、十数万円もの高額な広告料を支払いたくありません
(結論)
・ 法的には支払義務を免れることは容易ではありません
なお、実際には、業者が顧客へ訴訟等の法的手続を取ってまで回収しようとする金額でもないことから、ある程度の減額交渉は可能と考えられます
(検討)
・ 契約内容については基本的に契約書等の記載内容で判断されますので、契約書等はよく読んで押印しましょう
自動更新後は有償であることについて、勧誘時に説明が十分ではなかったとしても、契約書等に記載があれば、法的には合意したことになります
・ ちなみに、仮にAが事業者ではなく消費者である場合であれば、電話勧誘取引にあたる可能性があり、契約書等にクーリング・オフの記載がなければクーリング・オフで契約を解除等することができる場合や、不実告知等で契約を取り消すことができる場合があります

【2 ホームページリース】
月々のリース料で当社ウェブサイトを作成してくれる?
(事例)
・ 中小企業であるA社は、ウェブサイト作成業者であるB社から、「宣伝のために自社ウェブサイトを作成しないか、代金は月々の数万円のリース料の支払でよい」と勧誘されました
・ 後日、申込書等が送られてきて、よく読まずに記入押印して返送しました
・ すると、たしかにB社はA社の自社ウェブサイトを作成してくれましたが、そこまで満足の行くものではなく、宣伝の効果も実感することができませんでしたので、A社は、B社へ、ウェブサイトの更新を依頼しました
・ しかし、B社は、A社へ、いろいろな理由をつけて、ウェブサイトの更新をしてくれませんでしたので、A社は、B社へ、契約を解約して、今後のリース料の支払はしないと伝えました
・ すると、リース契約の信販会社からA社へ連絡があり、契約内容はウェブサイトの作成ではなくソフトウェアの売買のリース契約であり、リース契約の中途解約はできず、今後もリース料を払う必要がある、と告げられました
・ 更新されず宣伝の効果のない自社ウェブサイトのために、今後もリース料を支払い続けたくありません
(結論)
・ 事案によっては法的な支払義務を免れることができます
なお、実際には、A社と信販会社の間で交渉(~訴訟)をすることで解決する必要があり、関係裁判例等の高度な法的な知識や経験が必要になります
(理由)
・ 通常、リース契約は、物件の購入のために締結されるものであり、ウェブサイトの作成のような役務の提供のために締結されるものではありません
そのため、ホームページリースは、実質はウェブサイトの作成であるのに、ソフトウェアの購入のために締結されたものであると仮装されています
・ 信販会社は業者であるB社に対する管理義務・注意義務があり、B社がA社と契約したリース契約について若干の注意を払えば実質はウェブサイトの作成であることに気づくことができる場合、リース契約の締結を拒否すべきであったとして、リース料の支払を不要とした裁判例があります

【3 売上アップコンサル】
月額数十万円で効果的な売上アップを指導してくれる?
(事例)
・ 中小企業であるA社は、コンサル会社であるB社から、「御社のインターネット上のオンラインショップについて、月20万円で効果的な売上アップの方法をアドバイスできる」等と勧誘されました
・ 後日、申込書等が送られてきて、よく読まずに記入押印して返送しました
・ すると、B社はA社へオンラインショップについて一応のアドバイスらしきものを連絡してきましたが、その内容は一般的・普遍的な知識を伝えるに留まり、適時にA社に即した個別具体的なアドバイスはありませんでした
・ そのため、A社がB社へ解約と返金を求めたところ、B社はA社へ契約期間中の解約は認めず、むしろ、契約期間中の各月の利益と前年同月の利益を比較して増加額の90%を成功報酬として支払うよう請求しました
・ 月20万円の金額に見合うような適時にA社に即した個別具体的なアドバイスはなかったので、解除して返金を求めたい
(結論)
・ 事案によっては既払金を返還してもらえることもあります
なお、実際には、A社とB社の間で交渉(~訴訟)をすることで解決する必要があり、法令等の高度な法的な知識や経験が必要になります
(理由)
・ コンサル契約は毎月数十万円と比較的高額なものもすくなくありませんが、契約書上もコンサルの内容が具体的に記載されていないことも多いことから、コンサル業者と顧客企業の間でなされるべきコンサルの具体的な内容の想定について齟齬があり、後々、トラブルになることもすくなくありません
・ そして、コンサル契約が毎月数十万円と比較的高額なものであれば、コンサルの内容が料金に相応して具体的なものを合意・履行すべきであり、それがなされていないのであれば、債務不履行ということもできるでしょうし、場合によっては契約自体が無効であるということもできるかもしれません
・ さらに、上記事例のように、売上や利益の増加額の一定割合を報酬として請求する例もありますが、売上や利益の増加がコンサルによるものかどうかは一概に言えませんし、利益は売上増加だけでなく経費削減によっても増加するものですから、法的に暴利行為として無効とされることもあります

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