日々の経営に活かせる契約書・合意書

この記事は2019年4月に配布した 顧問企業法務通信から抜粋したものです。

いつも、ご相談、ご活用いただきまして、ありがとうございます。
さて、経営者の皆さまにとって、「取引をする際、契約書を作成しなければならない」という話は、よく耳にされると思います。
また、契約書の作成に関するご感想として、「タイミングや場面がわからない」「作成方法・記載内容がわからない」「こちらが契約書を作成しても取引先が押印してくれるかわからない」「信頼関係があるから、契約書がなくても問題ない」等もあり、契約書の作成にハードルを感じられる方もいらっしゃるようです。
もっとも、契約書は当事者間で合意した内容を文書により確認・記録するものにすぎませんから、契約書が必ずしも立派なものである必要はありません。
今回は、場面毎に活用できる様々な契約書の例について、ご紹介します。

【1 約束事を守らせたい】
わずか1頁・数か条の合意書であっても作成することが大事です。
お互いの都合のよい勘違いを阻止して約束を守ることを意識することで、トラブルを予防することも、トラブル初期段階で早期円満な解決方法を決定することも、トラブル本格段階で優位に立てるようにしておくこともできるでしょう。

【2 取引上のリスクを減らしたい】
十数頁・数十か条の取引基本契約書を作成することができれば、反復継続する取引において発生しがちなトラブルも、広範囲に予防することができるでしょう。

【3 営業ツールとして使いたい】
コンサル等、業務内容が伝わりづらい業種は、業務委託契約書を作成する過程で、業務内容や責任を具体化・明確化することで、伝わりやすくなると思います。

特に契約書・合意書に苦手意識をお持ちの方にご一読いただければ幸いです。

【1 約束事を守らせたい】
わずか1頁・数か条の合意書であっても作成することが大事です。

(場面)
1-1・取引先が代金支払を遅滞している
1-2・賃借人が賃借物件において用途義務違反や近隣迷惑行為をしている
1-3・従業員が副業において過度な長時間労働をしている

(場面ごとの契約書の例)
(場面1-1について)債務弁済契約書、和解契約書 など
例えば、合計500万円の代金支払義務があることを取引先に認めさせたうえで、毎月100万円ずつの分割払いをこちらが認めるというものです
そして、2回分(200万円)以上の分割払いを怠った場合には、直ちに残額に遅延損害金を付して一括払いすることも盛り込みます
なお、代表者の親族に連帯保証してもらう、取引先の第三者に対する売掛金に集合債権譲渡担保を設定してもらう等ができると、より良いです
まずは、支払義務を認めさせて分割払いをさせる方が、一括払いを求めるよりも、回収しやすいですし、将来の裁判の際の時間や手間も省略できます

(場面1-2について)誓約書 など
例えば、住居の営業目的使用や夜間の騒音行為があったことや、再度用法遵守義務違反や近隣迷惑行為があった場合には、賃貸借契約が解除されても異議はなく、直ちに退去することを、賃借人に認めさせるものです
用途義務違反や近隣迷惑行為を理由とした解除は容易ではありませんので、誓約書をもって、具体的な違反行為を認めさせるとともに、再度の違反行為の抑止や、再度の違反行為の際の退去等の確実性の向上を目指します

(場面1-3について)就業規則、副業届出
例えば、就業規則で副業を適切な範囲に制限することを規定することや、副業届出において過度な長時間労働をしないことを約束させることです
なお、全面的な副業禁止や兼業禁止は、就業規則で規定したり書面で約束させたりしても、法的には有効ではないことに注意が必要です
平成31年3月の厚労省のモデル就業規則は、会社が従業員へ副業や兼業を禁止または制限することができる場合として、「労務提供上の支障がある場合」(≒副業での過度な長時間労働をする場合)等に限定しています

【2 取引上のリスクを減らしたい】
反復継続する取引において発生しがちなトラブルを予防します。

(場面)
2-1・近い将来業務提携を行う可能性があり、現時点で機密秘密を開示する
2-2・特定の取引先と反復継続して取引を行う
2-3・不特定多数の消費者へ商品やサービスを販売・提供する

(場面ごとの契約書の例)
(場面2-1について)秘密保持契約書(NDA・Non-disclosure agreement)
秘密保持契約書は、契約締結交渉に先立って、契約締結交渉において開示を受けた情報について、一部例外を除き厳に秘密を保持するというものです
秘密保持契約書の雛形は経産省ウェブサイトでも入手することができます
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html

(場面2-2について)取引基本契約書
取引基本契約書は、反復継続した取引を予定している場合、個々の取引の全てに適用されるルールを予め包括的に規定しておくというものです
個々の取引の成立は発注書・受注書等の取交しによるものとされますが、その都度詳細なルールを協議することは現実的ではないためです
例えば、損害賠償責任を負う場合を故意重過失に限定する、損害賠償責任を負う金額を1か月分の取引代金に制限するなどを、規定します
同様に、取引について、例えば、完成責任を負う請負か、完成責任を負わない準委任か(但し、善管注意義務)等も、規定することがあります
取引基本契約書における条項は、個々の取引の成立条件、価格決定方法、検収方法、品質保証基準、瑕疵担保責任、再委託の可否、秘密保持、知的財産権の保護、中途解約方法、解除事由、損害賠償の免責事由、反社会的勢力の排除など、多岐にわたりますが、広範囲のトラブルを予防できます
取引基本契約書は弁護士等によるチェックや作成が望ましいです

(場面2-3について)利用規約
利用規約は、特にWeb上のサービスで多数の顧客と継続的に取引をするにあたり、適用されるルールを予め包括的に規定しておくというものです
取引基本契約書に似ているものの、顧客に消費者が含まれるため、事業者に有利な条項は、消費者契約法により無効とされることがあります

【3 営業ツールとして使いたい】
契約書作成を通じて業務内容を具体化・明確化することができます。

(場面)
・ コンサル等、業務内容が伝わりづらい業種

(場面ごとの契約書の例)
・ コンサルティング業務委託契約書 等

(業務内容が伝わりづらいことの危険性・不安感)
コンサル等、目に見えない専門的な知識や経験を商品として販売する場合、業務内容が伝わりづらいため、業務内容や完成責任についてお互いが都合のよいように勘違いしてしまい、トラブルに発展する危険性があります
例えば、補助金や助成金のコンサルで、補助金や助成金の申請の必要書類に関してどの程度のコンサルをするのか、条件に満たない等で補助金や助成金が受け取れなかった場合にはコンサル料の支払はどうするのか、等です
同様に、経営等のコンサルで、漠然と「月額**万円で経営改善コンサルをします」と言われても、具体的な業務内容が伝わらず、結局たいしたことをしてくれないのではないかという不安感を抱かれれば、契約に至りません

(業務内容の洗い出し・整理)
そこで、事業者と弁護士で一緒に、業務内容について、一つ一つ洗い出し、具体化・明確化したうえで、複雑な業務を整理して単純化したり、内容や目的に沿って体系化したりすることができます
そのうえで、業務内容として、完成責任を負うのか、完成責任は負わないものとしたうえで提案書や報告書等を一応の成果物として納品するのか等、業務内容の目標やこれに対応する料金も具体化・明確化することができます

(契約書を営業ツールとして使う)
業務委託契約書において業務内容が具体化・明確化されていて適度に単純化・体系化されていれば、業務委託契約書に署名押印を求める際に記載内容を説明することを通じて、業務内容を具体性・明確性をもってわかりやすく提案・確認することができます
契約書の記載内容の説明と署名押印は面倒なものと受け取られがちですが、契約書は、きちんと作れば、営業ツールとしても活かせると思います

関連記事

  1. 中小企業こそ気を付けるべき悪質商法
  2. 法律相談
  3. 業務委託の限界を知っておこう
  4. 中小企業の取るべきパワハラ対策
  5. 2021年の顧問相談の概要
  6. 顧問契約のご活用のご案内
  7. コロナ禍と債務整理ガイドライン
  8. 所有者不明土地の取得と民法改正
PAGE TOP