中小企業の著作権侵害(無料素材とウェブサイト)

中小企業にとって知的財産権のトラブルは縁のないことでしょうか

知的財産権というとやや高尚なものに聞こえますので、中小企業にとって知的財産権のトラブルは縁のないことと感じてしまうかもしれません

しかしながら、実際には定期的に知的財産権のトラブルの相談があります

そのなかでも企業の業種や規模とは関係なくお受けする相談が、自社のウェブサイトやチラシ等で使用していた写真やイラストに関し、自社が写真等の管理会社から損害賠償請求を受けた、というものです

しかも、自社担当者は無料素材だと思って写真等を使用したのに、管理会社から数十万円~数百万円の請求を受けた、ということがあります

このようなトラブルを解決・予防するには、どのように対応すべきでしょうか?

1 著作権等の有無の確認

第1に、写真等に著作権が発生していることや、管理会社が著作者から著作権の管理の委託を受けていること等、確認すべきでしょう

もっとも、大半の相談事例では、著作権等の有無について、実質的な争点となることはすくないように感じます

2 侵害(故意・過失)の有無や程度の確認

第2に、どのような経緯で写真等を自社のウェブサイトやチラシ等に使用しているのか、自社担当者に十分に確認すべきでしょう

大半の相談事例では、自社担当者(またはウェブサイト作成業者)が、管理会社と関係のないウェブサイト上で無料素材として掲載されている写真等を見つけて、その記載から写真等が無料であると安易に誤信して、写真等をウェブサイト等で使用した、ということのようです

もしその写真等につきGoogle等で画像検索をすれば、管理会社のウェブサイトがヒットすることが通常であり、多少確認すればわかる話です
そもそも、一定の品質の写真等であれば無料ではないと考えるべきですし、無料で使用したいのであれば画像検索等の労力は省略できません
また、それでも無料素材として無料で使用する場合には、入手経緯を記録する意味で、当該ウェブサイトを印刷しておく程度は必要でしょう

大半の相談事例では、安易に誤信して写真等を使用したとされ、著作権侵害について過失があったとされることが多いようです

東京地判H27.4.15(最高裁ウェブサイト)

※ 原告が著名な写真管理会社であり、被告が弁護士法人であり、被告の従業員が被告のウェブサイトに写真を使用した事案のようです

また、実際の相談事例の中には、取引先の了解の下、取引先の商品のパンフレットに掲載されていた商品等の写真を、相談者が相談者のウェブサイトで無償で使用していたところ、著作権者は当該取引先へ当該写真をパンフレットに使用することは許諾していたが、第三者のウェブサイトに使用することは許諾していなかったとして、管理会社から相談者へ損害賠償請求がなされたというものもありました

このように、特に無償で使用する場合には、利用許諾の権限や範囲について、十分に確認する必要があります

例えば、有名な「かわいいフリー素材集いらすとや」さんも、利用規約によれば一定の場合には有償とされていますから、実際に請求されるかどうかは別として、よく理解してから使用すべきでしょう

ご利用について | いらすとや

>以下の場合、有償にて対応させていただきます。メニューの「お問合せ」からご連絡下さい。
>素材を21点以上使った商用デザイン
>素材の高解像度データの作成(高解像度イラストのサンプル)

さらに、著作権侵害の期間や分量も問題となり、自社から管理会社へ率直にこれらを回答すべきか迷うところでもあります
もっとも、すくなくとも公開のウェブサイトに関しては「Internet Archive」等で調査可能で、ごまかしは利かないと思います

3 因果関係・損害の有無・程度(金銭的な評価)

第3に、著作権侵害があったとして、因果関係のある損害があったのか、それは金銭的にどの程度と評価すべきか問題となります

通常、管理会社は、著作権侵害者へ、管理会社の設定しているやや高額とも思える料金(損害金を上乗せする場合もある)を請求します

請求を受けた方としては、著作権侵害自体が寝耳に水で、当然、料金も想定外ですから、過大請求・不当請求ではないか等と感じるようです

もちろん、金額や支払方法については交渉の余地もあると思います(実際、訴訟になるほどの金額ではなく交渉で解決することも多い)

もっとも、もし訴訟となれば、裁判所としては、損害について判断することは容易ではありませんし、管理会社が一定の料金を設定していてそれに基づいて顧客と取引を行っているという事実があれば、ある程度は管理会社が設定している料金を尊重せざるを得ないと思います
前記裁判例も、著作権法114条3項を類推適用して、損害額について管理会社が設定している料金を前提に算出した額としているようです

したがって、交渉でも管理会社の設定料金を全く無視するわけにも行きません

4 おわりに

中小企業にとって知的財産権のトラブルが必ずしも縁遠いものではないことを感じられたのではないでしょうか

仮にインターネット上で無料素材として写真等を取得するのであれば、十分に調査、確認して、取得した経緯も記録することが必須です
その労力とリスクを考えれば、商用利用であれば、一定の予算を組んで写真やイラストを利用した方が賢明だと思います
(ちなみに、私のこのウェブサイトの写真も「PIXTA」という管理会社から有料で購入した素材を使用しています)

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