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この記事は2023年12月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
本年もご相談いただきましてありがとうございました。
本年12月8日の帝国データバンクの記事によれば、事業承継における後継者不在率は、6年連続で前年より下回っており、改善傾向にあるものの、依然として、代表者は高齢化傾向にあり、事業承継は進んでいないということです。
また、事業承継税制の特例措置が再度延長される方向で調整中のようです。
顧問先企業の皆様の中にも、来年は、事業承継やその準備に本腰を入れたい、という方は、すくなくないのではないでしょうか。
事業承継は、親族内承継、MBO(株主以外の経営陣による承継)、M&A(第三者による買収・小計)等、現在、様々な方法が取られるようになっています。
しかし、株式が分散していると、MBOやM&A等は株式譲渡の交渉に、親族内承継は事業承継後の安定的な経営に、不安を感じることがあるようです。
そこで、今回は、事業承継も見据えた分散株式の集約方法として、分散株式の任意買取や強制的な買取について、注意点等を書いてみました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
(参考文献)「『株式分散』問題と釉薬をめぐる整理・対策ポイント」 ほか
【1 株式の任意買取の価格設定と税務リスク】
実務上、税務上の価格(財産評価基本通達)が無難なようです
【2 株式の任意買取における問題点・注意点】
問題点・注意点を把握すれば、対応できるかもしれません】
【3 株式の強制的な買取における問題点・注意点】
条件がありますが、強制的な買取方法も用意されています】
【1 株式の任意買取の価格設定と税務リスク】
実務上、税務上の価格(財産評価基本通達)が無難なようです
(株式の任意買取の価格設定の候補)
・株式発行金額(1株○万円等)、純資産額の1株あたりの金額
・税務上の価格(財産評価基本通達)
・「公正な価格」(企業価値評価)等
(株式発行金額(1株○万円等)、純資産額の1株あたりの金額)
特に額面金額による売買は、単純明快で、合意しやすいかもしれません
しかしながら、税務リスクは相応に高いものがあります
特に同族関係者間の株式の額面金額による任意買取では、税務署から、低額譲渡や高額譲渡と認定されて、贈与税が課税される可能性があります
純資産額の1株あたりの金額は、含み損・含み益が評価されておらず、会社に事業用不動産が存在する場合等には、高額になる可能性があります
(税務上の価格(財産評価基本通達))
相続税・贈与税に関する「財産評価基本通達」により算定する価格です
価格算定に国税庁通達を利用するものであり課税リスクを軽減できます
株主区分等に応じて「原則的評価方式」または「配当還元方式」で算定され、「原則的評価方式」の場合、営業や資産、総資産額や従業員数等に応じて、純資産価額方式、類似業種比準価額方式等を選択または併用するようです
価格算定は税理士さん・公認会計士さんにお願いすることになります
なお、税務リスクを考慮して、相続税・贈与税に関する「財産評価基本通達」より高額になりやすい法人税基本通達等により算定することもあるようです
(「公正な価格」(企業価値評価))
株式買取請求に関連して裁判所が企業価値評価により算定する価格です
通常、「公正な価格」(企業価値評価)は、税務上の価格(相続税・贈与税に関する「財産評価基本通達」による価格)より、高額になります
企業価値評価では、会社規模等に応じて、配当還元方式、収益還元法・DCF法、純資産価額方式、類似業種比準価額方式から、複数選択・併用します
価格算定は公認会計士さんに数十万円等の費用でお願いすることになります
税務リスクが乏しく、高額となり、売り手側の理解を得やすい(但し、譲渡利益による所得税等の課税はある)ものの、買い手側の負担も大きいです
【2 株式の任意買取における問題点・注意点】
問題点・注意点を把握すれば、対応できるかもしれません
(株式を任意に買い取る方法)
・株式の任意買取には、①経営者(支配株主)が他の株主から買い取る方法、②会社が他の株式(支配株主以外の株主)から買い取る方法があります
(そもそも、株式の任意買取が困難な場合)
・売却拒否、判断能力低下
当然ながら、任意買取はできませんので、強制的な買取方法を検討します
(判断能力低下は、成年後見人の選任で、対応できる可能性があります)
・遺産分割協議未了
売り手側の株主の相続人間で足並みが揃わないと、任意買取は困難ですので、強制的な買取方法(会社の相続人等に対する株式売渡請求)を検討します
・所在不明
売り手側に連絡がつかない場合、そのままでは任意買取はできませんので、強制的な買取方法(所在不明株主の株式売却制度)を検討します
(名義株の対処)
・実際に払込をした者(名義貸人)が実際には払込をしていない者(名義借人)へ株主として名義を貸した状態の株式を、名義株と呼びます
・株主名簿や決算書の「同族会社の判定に関する明細書」に、実際には会社に払込したことのない者の名前が載っている場合、名義株の可能性があります
・名義借人が名義貸人へ名義書換に協力してもらう際、名義貸しの経緯の確認書を作成して双方の署名押印を行う等、税務リスクの対処が必要になります
・なお、例えば、相続人が事情を知らずに名義借人を相続して、相続人が名義貸人へ名義貸し否定と株式買取希望をした場合、紛争になってしまいます
(自己株式取得の財源規制や売主追加請求)
・会社が他の株式(支配株主以外の株主)から買い取る場合、剰余金の額の範囲内でしか買い取れないという財源規制がありますので、注意が必要です
資本の額の減少(減資)により余剰金を確保することもありえます
・会社が特定の株主から買い取ろうとした場合でも、他の株主が会社へ自己を売主として追加して会社へ買い取るよう請求されると、対応が必要になり、予算等の関係で按分して取得することもありえます
【3 株式の強制的な買取における問題点・注意点】
条件がありますが、強制的な買取方法も用意されています
(特別支配株主の他の全ての株主に対する株式売渡請求)
・単独で会社の議決権の90%以上を保有する株主は、会社の承認を得ることで、他の全ての株主等に対し、保有株式の全部の売渡しを請求できます
・なお、この請求では、特別支配株主は、特定の株主に対してではなく、他の全ての株主に対して、株式を売り渡すよう、請求する必要があります
・この請求では、株式の価格について、会社が承認し、他の株主が裁判所へ価格決定申立等をしなければ、特別支配株主が算定した価格となります
・価格決定申立がなされると、裁判所は、株式の価格について、「公正な価格」(企業価値評価)で算定しますので、相応に高額となることが多いです
(会社の相続人等に対する株式売渡請求)
・一定の要件(定款の規定、相続を知ってから1年間以内、財源規制等)の下、会社は、株主の相続人に対し、株式を売り渡すよう請求することができます
・この請求においては、株式の価格について、会社と相続人の間の協議で決定することになりますが、価格決定申立により価格を決定することが可能です
・なお、この請求において、株式の価格について、協議が調わず、価格決定申立もなされない場合には、株式売渡請求自体の効力がなくなります
(会社による所在不明株主の株式売却制度)
・会社が株主に対してする通知等が5年以上継続して到達しない場合、会社が裁判所の許可を得たうえで、当該株主を所在不明株主として、会社が所在不明株主の株式を他の株主へ売却したり、会社が自己株式として買い取ったり(財源規制あり)することができます(代金は供託することになります)
・経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けた中小企業については、「5年」が「1年」に変更されますので、利用しやすくなっています
(スクイーズ・アウト(株式の併合等))
・本来的な手法ではありませんが、株式を併合する方法や全部取得条項付種類株式に変更する方法等で、端数処理の際に強制的に買い取ることができます
・紙面の都合上、省略しますが、専門的・技術的な方法を組み合わせて、株主総会特別決議と財源規制遵守により、強制買取を実現できることがあります