中小企業経営者が絶対に知っておくべき法律知識① ~その合意書、清算条項入ってますか?~

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この記事は2025年1月に配布予定の顧問企業法務通信から抜粋したものです。

今年もよろしくお願いいたします。

今年は、「中小企業経営者が絶対に知っておくべき法律知識」と題して、基本的な事項を知らなかったために、行き違いやトラブルを思うように予防・解決できなかったという事例を基に、顧問企業法務通信をお届けしたいと思います。

1回目は「清算条項」です。

場面:行き違いの是正やトラブルの解決について協議して合意する場面

立場:特に合意書に沿って金銭を支払う側

合意書、和解書、覚書、念書等の書面は、合意した事項をできるかぎり正確に反映することが重要ですが、「合意後のこと」を記載することも重要です。

「合意後のこと」とは、合意した事項のとおりにすれば全て解決ということか、合意した事項のとおりにしても全て解決ではないか、ということです。

合意書等を交わして合意した事項のとおりにすれば、お金を支払う側としては、当然、全て解決と考えがちですが、お金を受け取る側としては、必ずしも全て解決とは考えていないことがあり、せっかく合意書を交わして合意した事項のとおりにしたのに、解決したかどうかで紛争が再燃することが時折あり、油断できません。

【1 清算条項って何ですか?】

トラブルの解決に清算条項は必須です!

【2 清算条項を入れれば、全て解決?】

清算条項の効力の及ぶ人や対象の範囲に注意

【3 清算条項付き合意書の具体例】

合意書には紛争や解決の内容を具体的に反映させましょう

【1 清算条項って何ですか?】

トラブルの解決に清算条項は必須です!

(設例)

・従業員甲が株式会社乙の代表者丙からパワハラを受けたうえに不当に解雇されたとして、甲は、乙に対し、1年間分の給与を請求しました

・甲と乙との協議により、乙は、甲に対し、解決金として6か月分の給与相当額を支払うこととなり、甲と乙との間で合意書を交わすことにしました

・甲と乙との間で合意書を交わしたうえで、乙は、甲に対し、解決金として6か月分の給与相当額を支払いました

(一般的な清算条項の例)

・甲及び乙は、甲と乙との間には、〔本件に関し、〕本合意に定めるもののほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。

※ 「本件に関し」を入れるか等については後述します

※ 「甲は、その余の請求を放棄する。」を併用することもあります

(合意書に清算条項を入れなかった場合)

・合意書に清算条項がない場合、終局的に解決したと言えるでしょうか

設例に即して言えば、次の可能性があり、終局的に解決したと言えません

① 甲が、乙に対し、6か月分の給与相当額の支払は一部の支払にすぎず、まだ給与を支払うべきであるとして、更に給与の支払を請求する可能性

② 甲が、乙に対し、丙の乙に対するパワハラに関して、会社法350条に基づき、慰謝料を請求する可能性

(合意書に清算条項を入れた場合)

・合意書に清算条項がある場合、終局的に解決したと言えるでしょうか

設例に即して言えば、次の可能性があり、合意や清算条項の内容によります

A 清算条項に「本件に関し」が含まれている場合

甲が、乙に対し、丙の乙に対するパワハラに関して、会社法350条に基づき、慰謝料を請求する可能性があることに注意が必要です

B 清算条項に「本件に関し」が含まれていない場合

甲が、乙に対し、丙の乙に対するパワハラに関して、会社法350条に基づき、慰謝料を請求しても、清算条項により支払を拒否できます

【2 清算条項を入れれば、全て解決?】

清算条項の効力の及ぶ人や対象の範囲に注意

(清算条項の効力の及ぶ人の範囲)

・清算条項の効力の及ぶ人の範囲は、合意した当事者のみに限られます

・設例に即して言えば、合意書を甲乙間で交わしたにすぎませんから、丙が乙の代表者であるからと言って、合意した当事者に丙は含まれていません

そのため、清算条項の効力は、甲乙間のみに及び、甲丙間には及びません

・清算条項付きの合意により甲乙間で紛争が終局的に解決したとしても、甲丙間で紛争が解決したということにならない点に、注意が必要です

言い換えると、甲乙間で清算条項付きの合意書を交わしたうえで、乙が甲に対して解決金として6か月分の給与相当額を支払った後、甲が丙に対してパワハラの慰謝料を請求しても、丙は、甲に対し、甲乙間の清算条項付きの合意書と支払を理由に、パワハラの慰謝料の支払を拒むことはできません

(清算条項の効力の及ぶ対象の範囲)

・清算条項の効力の及ぶ対象の範囲は、「本件に関し」の有無によります

A 清算条項に「本件に関し」が含まれている場合

合意の対象(合意により解決する対象となる紛争)に限られます

設例に即して言えば、合意の対象である本件=解雇に関する解決金ですので、清算条項の効力は、解雇に関する解決金に及ぶだけで、パワハラに関する慰謝料には及ばない(≒未解決)ことになります

B 清算条項に「本件に関し」が含まれていない場合(包括的清算条項)

合意の対象に限られず、合意当事者間の全ての権利義務になります

設例に即して言えば、合意の対象である本件=解雇に関する解決金ですが、清算条項の効力は、解雇に関する解決金に限られないため、パワハラに関する慰謝料にも及ぶ(≒解決)ことになります

(清算条項で幅広く終局的に解決とするためには)

・設例に即して言えば、甲乙間で合意して紛争を解決しても、甲丙間に紛争が飛び火しかねないような場合、甲乙丙の三者で合意することが望ましいです

・合意により解決する対象となる紛争をできるかぎり幅広く記載するとともに、解決する方法が紛争に対応したものとすることが望ましいです

・例えば、「解雇やパワハラに関する紛争」の解決金として「6か月分の給与相当額と慰謝料10万円を支払う」等とすることも考えられます

【3 清算条項付き合意書の具体例】

合意書には紛争や解決の内容を具体的に反映させましょう

(いつどこで誰が誰に何をなぜどのようにするのかが大事)

合  意  書

元従業員A(以下「甲」という。)、株式会社B(以下「乙」という。)及び代表者C(以下「丙」という。)は、解雇に関する地位確認請求及びパワハラに関する損害賠償請求(以下両者を併せて「本件請求」という。)につき、本日、次のとおり合意したので、その証として本書面3通を作成のうえ、各自1通保有する。

1 甲、乙及び丙は、乙が甲に対して本件解決金として160万円(解雇に関して150万円、パワハラに関して10万円)の支払義務があることを確認する。

2 乙は、甲に対し、前項の金員を、次のとおり分割して、甲指定の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

① 令和7年1月から同年2月まで 毎月末日限り 50万円ずつ

② 令和7年3月末日限り 60万円

3 甲は、その余の請求をいずれも放棄する。

4 甲と乙及び甲と丙は、互いに、自らまたは第三者を介し、当事者双方、乙の役員及び従業員に対し、電話、郵便、電子メール等の手段の如何を問わず、一切接触しないことを確約する。

5 甲と乙及び甲と丙は、互いに、官公署からの問い合わせ等の正当な理由がある場合を除き、本件紛争及び解決に至る経緯及び内容について、一切口外しないことを確約する。

6 甲、乙及び丙は、本合意をもって甲乙間及び甲丙間の一切の紛争を解決させることとし、甲と乙との間及び甲と丙との間には、本合意に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。

令和6年12月25日

甲 福岡市早良区…… A 印

乙 福岡市城南区…… 株式会社B 代表取締役 C 印

丙 福岡市中央区…… C 印

(補足:接触禁止条項や口外禁止条項)

・上記の合意書の例は、5項に接触禁止条項を、6項に口外禁止条項を、それぞれ入れていますが、いずれも紳士条項と理解しておくべきものでしょう

・実効性確保のための違約金条項の追加も考えられますが、条項の法的有効性や違反の立証可能性、当事者の反発等もあり、深追いは現実的ではないです

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