宅建業者から見た不動産売買における契約不適合責任

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この記事は2023年5月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

今回は、宅建業者が売主となり宅建業者以外が買主となる場合を念頭に、宅建業者から見た不動産売買における契約不適合責任について、書いてみました。

契約不適合という概念は、勉強熱心な方にとっては、改正民法の令和2年4月施行もあり、そろそろ身近になりつつあるのではないかと思います。

ただ、契約不適合という概念は、宅建業法、住宅品質確保法、商法526条、消費者契約法も関連しており、特に期間制限等が複雑になっています。

そこで、契約不適合の具体例を確認したうえで、契約不適合における権利の内容や法令・期間、各種特約の効力について、まとめてみました。

今後は、機会があれば、不動産仲介業者の責任に関する裁判例等も紹介したいと考えています。今回は、紙面の都合もあり、説明が不十分なところもあるかとは思いますが、契約不適合責任に関する確認のきっかけとしていただければ幸いです。

(参考資料)

「新築分譲マンション事業にかかる民法(債権関係)改正の影響についてのQ&A」(一社)不動産協会

「不動産取引紛争の実践知〔LAWYERS’ KNOWLEDGE〕 — 宅建業法の戦略的活用」熊谷則一・有斐閣

【1 不動産売買における契約不適合の具体例】

まずは契約不適合の具体例を確認しましょう

【2 売主:宅建業者/買主:宅建業者以外の場合】

契約不適合における権利の内容や法令・期間についてまとめました

【3 3 契約不適合に関する各種特約の効力】

宅建業法、住宅品質確保法、消費者契約法に注意しましょう

【1 不動産売買における契約不適合の具体例】

まずは契約不適合の具体例を確認しましょう

(契約不適合とは)

・契約不適合とは、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」を言います(民法562条以下)

・民法の概念の、改正前の「瑕疵」(かし)も、改正後の「契約不適合」も、基本的に同様の枠組において判断されるものと考えられています

すなわち、「売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして」「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたか」を判断したうえで、引き渡された目的物がそのような品質・性能を有していたかどうかを判断します(最判平成22年6月1日参照)

・契約不適合は、絶対的・客観的に判断されるのではなく、売買契約の当事者間において相対的・主観的に判断されるものである点に、注意が必要です

(契約不適合の具体例)

・住宅建築目的の造成地の売買契約における造成地の擁壁の崩壊

造成地の擁壁の品質・性能について、売買契約の当事者間において、明示的な合意がなくとも、住宅建築目的の造成地の売買契約であれば、造成地が法令や技術的な基準を満たして造成されていることが予定されているでしょうから、造成に法令違反等があれば、物理的な契約不適合にあたるでしょう

・分譲マンションの行政推奨の建材使用に関するパンフレットと目的物の相違

分譲マンションの建材について、売買契約の当事者間において、明示的な合意がなくとも、行政推奨の建材の使用がパンフレットに記載されていれば、行政推奨の建材を使用していることが予定されているとして、一般的な建材を使用したことを、物理的な契約不適合にあたるとした裁判例があります

・住宅用地の売買契約における地中埋設物の残置

地中埋設物について、売買契約の当事者間において、明示的な合意がなくとも、地中埋設物の残置により土地の使途が限定されたり想定外の除去工事が必要となったりする程のことは予定されていないから、地中埋設物の残置があれば、程度にもよりますが、物理的な契約不適合にあたるでしょう

・心理的瑕疵等

過去の事件事故(「人の死の告知に関するガイドライン」参照)、嫌悪施設、迷惑行為、騒音・眺望阻害等の存在も、契約不適合にあたることがあります

【2 売主:宅建業者/買主:宅建業者以外の場合】

契約不適合における権利の内容や法令・期間についてまとめました

(契約不適合における権利の内容と期間)

・契約不適合責任に基づく権利(民法562~564条)

追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除の4つ

・権利に関する期間・期限

権利行使可能期間(消滅時効期間・担保責任期間)と通知期限の2つ

(売主:宅建業者/買主:宅建業者以外の場合の法令と期間)

・権利行使可能期間

民法166条により「知った時から5年間」「引渡から10年間」(のいずれか短い方の期間)ですが、新築住宅の構造耐力上主要な部分等については、住宅品質確保法95条により「引渡から10年間」に伸張されています

・通知期限

民法566条により「知った時から1年以内」ですが、宅地・建物について、売主が宅建業者で買主が宅建業者以外の者の場合、宅建業法40条により、通知期限を引渡から2年間以上とする特約があれば、特約どおりとなります

対象 宅建業法上の宅地以外の土地 右記以外の宅建業法上の宅地・建物 新築住宅の構造耐力上主要な部分等
適用法令 民法(事業者間の場合には商法526条) 民法+宅建業法40条 民法+住宅品質確保法95条
消滅時効 【民法166条】知った時から5年間、引渡から10年間の消滅時効あり 【民法166条】知った時から5年間、引渡から10年間の消滅時効あり 【住宅品質確保法95条】引渡から原則10年間
通知期限 【民法566条】通知義務あり・知った時から1年以内(事業者間なら、商法526条により、引渡から6か月間以内) 【宅建業法40条】通知義務あり・通知期限を引渡から2年間以上とする特約があれば、特約どおり(なければ、民法) 【民法566条】通知義務あり・知った時から1年以内

備考:通知義務について、特約がなく、事業者間であっても、商法526条が適用されるかどうかは、事例によって異なることがあります

【3 契約不適合に関する各種特約の効力】

宅建業法、住宅品質確保法、消費者契約法に注意しましょう

(契約不適合責任を免除する特約)

・有効になる場合や内容は以下のいずれか程度に限られるものと思われます

① 宅建業者同士で売買する場合
② 事業者(宅建業者を除く)同士で売買する場合
③ 消費者同士で売買する場合
④ 宅地以外の土地を事業者(宅建業者を含む)同士で売買する場合

・契約不適合責任の免除の特約が有効であっても、契約不適合について、売主が買主へ知りながら告げなかった場合、免責されません(民法572条)

なお、契約不適合について、故意ではなく、重大な過失により告げなかった場合、特約が有効かどうかは、裁判所の判断が分かれています

・売買契約の当事者間の契約締結交渉において、事実関係を十分に調査・説明することで、事実関係を目的物の品質・性能として予定されたものとして、「契約不適合」にあたらないようにすることが重要でしょう

(損害賠償義務や代金減額請求の金額を予定する特約)

・契約不適合の程度について、あらかじめ明確に当事者間で合意して、合理的な金額の算定方法を特約で定めておくことは、直ちに無効となるものではありませんが、特に事業者と消費者の間の契約では明確性や合理性が必要です

(契約書以外の書面の記載内容との同一性を保証しない旨の特約)

・パンフレットの記載内容等、契約書以外の書面の記載内容と目的物の状態の同一性を保証しない特約も、直ちに無効となるものではありませんが、別途、不動産売買に関する広告規制に抵触する可能性があります

(契約不適合責任を「隠れた」ものに限定する特約)

・「契約不適合責任を免除する特約」と同様の扱いになるものと思われます

(契約不適合責任の通知義務を請求義務に変更する特約)

・「契約不適合責任を免除する特約」と同様の扱いになるものと思われます

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