中小企業経営者が絶対に知っておくべき法律知識② ~分割払いの回収可能性を高める給付条項~

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この記事は2025年2月に配布予定の顧問企業法務通信から抜粋したものです。

前回に引き続き「中小企業経営者が絶対に知っておくべき法律知識」と題して、基本的な事項を知らなかったために、行き違いやトラブルを思うように予防・解決できなかったという事例を基に、顧問企業法務通信をお届けしたいと思います。

2回目は「給付条項」です。

場面:当方が先方へ金銭の支払を請求して分割払いを合意する場面

立場:合意書に沿って金銭を受け取りたい側

合意書、和解書、覚書、念書等の書面は重要ですが、合意した事項をできるかぎり明確に記載しないと、支払を遅滞する口実を与えることになりかねません。

特に分割払いの場合には、実際に合意書のとおりに支払がなされるか、不安がありますから、支払を遅滞することのないようにさせる工夫が求められます。

担保を立てさせる方法(支払義務者の親族等に(連帯)保証人になってもらう、支払義務者の自宅等に抵当権を設定させる等)は、必ずしも簡単ではありません。

担保を立てさせる方法以外だと、支払を遅滞した場合には制裁(一括払い)がある、支払を遅滞しなかった場合には報償(一部免除)がある等が考えられます。

以下では、一般的な給付条項や期限利益喪失条項を紹介するとともに、支払を遅滞することのないように工夫した条項も紹介します。

【1 給付条項って何ですか?】

債権回収には給付条項や期限利益喪失条項を活用しましょう

【2 一部免除条項で回収可能性を高める】

分割払いの継続履行のインセンティブを与えましょう

【3 一部免除条項も含む合意書の具体例】

合意書には紛争や解決の内容を具体的に反映させましょう

【1 給付条項って何ですか?】

債権回収には給付条項や期限利益喪失条項を活用しましょう

(設例)

・株式会社甲が従業員乙へ外注業務を担当させていたところ、従業員乙は、取引先Pに、取引先Pから株式会社甲への請求額を本来の見積もりの10%増しの金額にさせて、株式会社甲から取引先Pへの支払額と本来の見積額との差額を、取引先Pから従業員乙へ支払わせていました(違法なキックバック)

・発覚後、甲と乙との協議により、乙は、甲に対し、損害金を分割して支払うこととなり、甲と乙との間で合意書を交わすことにしました

(一般的な給付条項+確認条項の例)

・乙は、甲に対し、本件解決金として合計538万円の支払義務があることを認め、これを次のとおり分割して甲指定の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

① 令和7年4月から令和10年8月まで 毎月末日限り 10万円ずつ

② 令和10年9月末日限り 8万円

※ 分割払いの場合、給付条項だけでは途中で分割払いが滞っても残額一括請求をすることはできませんので、期限利益喪失条項(後述)も併用します

(一般的な期限利益喪失条項の例)※2回分懈怠で期限利益喪失

・乙が甲に対して前項の分割金の支払を2回分(合計20万円)以上怠ったときは、乙は当然に前項の期限の利益を失い、乙は、甲に対し、本件解決金から既払金を控除した残額及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。

・分割払いの場合、給付条項(確認条項含む)+期限利益喪失条項の併用が一般的ですが、やはり実際に支払がなされるかどうかは不安があります

(分割払いの回収可能性を高める方法)

・担保を立てさせる方法(支払義務者の親族等に(連帯)保証人になってもらう、支払義務者の自宅等に抵当権を設定させる等)がありますが、法的には強制できるものではないですし、支払義務者の親族等の協力が得られない、支払義務者が自宅等を保有していない等、難航することも多いです

・そこで、次に述べるように、一定額の支払を完了したら残額を免除する方法もあります(支払うべき額の一部に争いがある場合にも有用です)

【2 一部免除条項で回収可能性を高める】

分割払いの継続履行のインセンティブを与えましょう

(給付条項・確認条項+一部免除条項+期限利益喪失条項の例)

1 乙は、甲に対し、本件解決金として合計538万円の支払義務があることを認め、これを次のとおり分割して甲指定の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

①令和7年4月~令和9年3月毎月末日限り10万円ずつ(360万円)

②令和9年4月末日限り178万円

2 乙が甲に対して第1項①の分割金の支払を2回分(合計20万円)以上怠らず、かつ、令和9年3月末日までに合計360万円支払ったときには、甲は乙に対して第1項②の分割金の支払を免除する。

3 乙が甲に対して第1項①の分割金の支払を2回分(合計20万円)以上怠ったときまたは令和9年3月末日までに合計360万円支払わなかったときには、乙は当然に前項の期限の利益を失い、乙は、甲に対し、本件解決金から既払金を控除した残額及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。

・一定額の支払を完了したら残額を免除するという条項により、履行(支払)のインセンティブを与え、分割払いの回収可能性を高めることになります

・支払額の一部に争いがある場合、給付条項の額を請求者の主張額としたうえで、免除部分を除いた実質的な分割払い額を被請求者の主張額として、免除額を両者の差額とすることで、「遅滞しなければ被請求者主張額、遅滞すれば請求者主張額」となり、合意や支払のインセンティブが働きます

・なお、税務上、一部免除(条項例に即して言えば178万円)は、請求側の損金処理だけでなく被請求側の債務免除益課税等も生じる可能性があります

(補足:身元保証契約の活用は現実的ではない)

・身元保証は身元保証法及び民法、判例により相当程度制限されています

・就職時に事業者が労働者へ身元保証人を立てさせることがありますが、労働者が事業者へ損害を与えた場合であっても、事業者が労働者へ身元保証契約に基づき請求をすることは、現実には困難だと思っておいた方が良いです

※身元保証契約は1回最長5年で満期時の更新が必要(自動更新不可)ですが放置されがち、令和2年4月以降の身元保証契約は極度額(上限額)の定めがないと無効となる、事業者の労働者に対する監督責任も考慮される等

【3 一部免除条項も含む合意書の具体例】

合意書には紛争や解決の内容を具体的に反映させましょう

合  意  書

株式会社A(以下「甲」という。)、元従業員B(以下「乙」という。)及び連帯保証人C(以下「丙」という。)は、乙が、甲に対し、令和5年10月ころから平成6年9月ころまでの間、乙の取引先Pに対する指示の下、Pから甲へ本来より過大な金額の外注費を請求させたうえ、乙が甲へこれを適正な請求として承認したことで(なお、請求額と本来額の差額がPから乙へ支払われた。)、その結果、合計538万円もの損害を与えたことに関する損害賠償につき、その解決のため、本日、次のとおり合意したので、その証として本書面3通を作成のうえ、各自1通保有する。

1 乙は、甲に対し、上記前文に掲げた事実及び合計538万円の損害賠償義務を負うことを認め、これを次のとおり分割して甲指定の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

①令和7年4月から令和9年3月まで毎月末日限り10万円ずつ(360万円)

②令和9年4月末日限り178万円

2 乙は、甲に対し、令和7年3月末日までに、第1項の債務の担保として乙所有の自宅(福岡市博多区……)の土地・建物に抵当権を設定する。

3 乙が甲に対して第2項の抵当権の設定を怠らず、かつ、第1項①の分割金の支払を2回分(合計20万円)以上怠らず、かつ、令和9年3月末日までに合計360万円支払ったときには、甲は乙に対して第1項②の分割金の支払を免除する。

4 乙が甲に対して第2項の抵当権の設定を怠ったとき、第1項①の分割金の支払を2回分(合計20万円)以上怠ったときまたは令和9年3月末日までに合計360万円支払わなかったときには、乙は当然に前項の期限の利益を失い、乙は、甲に対し、本件解決金から既払金を控除した残額及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。

5 丙は、甲に対し、第1項の債務について連帯して保証する。

6 甲、乙及び丙は、本件に関し、甲と乙との間及び甲と丙との間には、本合意に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

令和7年1月25日

甲 福岡市早良区…… 株式会社A 代表取締役 某 印

乙 福岡市城南区…… B 印

丙 福岡市中央区…… C 印

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