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この記事は2022年4月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
今回は、中小企業に比較的身近でイメージしやすい事例で、私も時々ご相談を受ける事例として、企業のリース車両の交通事故について、書きました。
社用車について、企業が販売会社から購入するのではなく、企業がリース会社からリースを受ければ、通常、リース料全額を損金計上することができます。
そのため、社用車をリースで調達することも多く、それ自体は問題ありません。
しかしながら、交通事故の際、特に損傷が重大で、修理代金が車両価値よりも高額となる場合(いわゆる経済的全損)やいわゆる評価損が発生する場合、リースであることから、自社所有とは異なる論点や負担が発生することがあります。
社用車の交通事故は避けがたいものですから、交通事故の解決の特徴やリース車両特有の問題があることについて知ったうえで、リースを賢く活用しましょう。
参考文献:
いわゆる赤い本の関連部分(2000年、2015年・2017年・2019年の各下巻)
梶村太市ほか編『新・リース契約法』244頁(青林書院、2011)
有吉尚哉=原田伸彦編『リース法務ハンドブック』78頁(きんざい、2020)
【1 リース車両の交通事故の基本】
軽微な損傷であればリース車両であることは特段問題になりません
【2 リース車両の経済的全損】
経済的全損の場合は企業に一定の負担(手出し)が発生します
【3 リース車両の評価損】
評価損が認められる場合でも企業は原則として請求できません
【1 リース車両の交通事故の基本】
軽微な損傷であればリース車両であることは特段問題になりません
(売買契約・割賦購入における所有権の帰属)
・企業が販売会社から車両を購入する場合(売買契約)、通常、車両の所有権は、販売会社から企業へ移転しますが、購入費用は減価償却にて計上します
そのため、代金一括支払ではなく、クレジットを組む場合も多いでしょう
・その場合、車両を残クレジットの支払の担保とするため、車両の所有権は、購入時には販売会社のまま(または信販会社帰属)となります(所有権留保)
その場合でも、残クレジットを完済すれば、車両の所有権は、完済時に販売会社または信販会社から企業へ移転することになります
・車両は企業が実質的に所有しますが、支払中は販売会社等の担保となります
(リース契約における所有権の帰属)
・リース契約では、(ユーザーがリース会社等へ車両の希望を伝えて、)販売会社がリース会社へ車両を販売して、リース会社が企業へ車両を賃貸します
企業が販売会社から車両を購入するわけではないため、通常、車両の所有権は、販売会社から、企業ではなく、リース会社へ移転されます
・なお、リース契約は、特に税務会計上、売買(融資)に近いファイナンス・リース契約と、賃貸借に近いオペレーティング・リース契約に分類されます
大雑把に言えば、前者は、期間中解約不能+フルペイアウト(車両購入代金総額以上の支払)のリース契約であり、後者はそれ以外のリース契約です
★いずれのリース契約でも、通常、民法の原則を修正する危険負担免責規定があり、車両の損傷や滅失が発生した際、それが使用者の故意過失でなくとも、リース会社ではなく使用者が責任を負う旨が規定されています【重要】
(リース車両の軽微な事故)
・事故で車両が損傷した場合、本来、車両の所有者が事故の加害者へ損害賠償請求をすることになるため、車両の使用者にすぎない企業ではなく、リース車両についてリース会社が、所有権留保車両について販売会社(信販会社)が、事故の加害者へ修理費用等を損害賠償請求することになりそうです
ただ、軽微な損傷であれば、リース車両や所有権留保車両であっても、車両の使用者は事故の加害者へ修理費用等を損害賠償請求できるとされています
理由は複数あるようですが、リース車両は使用者が修理義務を負うから、所有権留保車両は使用者が担保保持義務を負うから、等とされています
【2 リース車両の経済的全損】
経済的全損の場合は企業に一定の負担(手出し)が発生します
(事例1)
・売値500万円の新車について、リース期間5年、年間リース料80万円、5年後の残価設定100万円とするリース契約を締結したとします
・リース契約締結の1年後、車両が事故に遭い重大な損傷があり、事故直前の車両時価額350万円に対し、修理代金の見積額は450万円となりました
・リース会社と企業はリース契約を解除することとなりましたが、企業はリース会社から中途解約違約金420万円を支払うように求められています
(経済的全損とは)
・修理代金が車両時価額に買替諸費用を加えた金額を上回る場合を経済的全損といい、経済的全損における損害賠償請求は、通常、車両時価額に買替諸費用を加えた金額を限度とされ、修理代金全額には足りないことになります
・事例1は、事故直前の車両時価額350万円に対し、修理代金の見積額は450万円であり、通常、買替諸費用は5~10万円程度ですから、経済的全損にあたり、損害賠償請求は355~360万円程度が限度になります
・なお、事故車両の売却代金があれば損害から差し引くことになります
・また、「対物超過修理費用特約」等の特約がある場合には結論が変わります
(自社所有車両の経済的全損の帰趨)
・自社所有車両の経済的全損の場合、車両所有者としては、修理または買替を選択しますが、代金の不足部分は手出しするという辛い結果になります
① 修理(車両時価額を受け取る)
② 買替(車両時価額+買替諸費用-事故車両売却代金を受け取る)
(リース車両の経済的全損の帰趨)
・リース車両の経済的全損の場合、そもそも、車両の所有者(リース会社)ではないのに車両の使用者(企業)が事故の加害者へ損害賠償できるかという論点がありますが、結論としては請求できると考えられています
・もっとも、事例1のように、中途解約違約金420万円が事故直前の車両時価額350万円を上回る場合でも、損害賠償請求の限度は事故直前の車両時価額(事例1なら350万円。差額70万円は手出し)とされています
・上記結論は、企業に故意過失がない場合でも変わらないものと考えられます
【3 リース車両の評価損】
評価損が認められる場合でも企業は原則として請求できません
(事例2)
・売値500万円の新車について、リース期間5年、年間リース料80万円、5年後の残価設定100万円とするリース契約を締結したとします
・リース契約締結の3か月後、走行距離3000kmの状態で、車両が事故に遭い車両の骨格部分に重大な損傷があり、修理代金200万円をかけて修理したものの、高速走行中に風切音がする等の機能上の不具合が残りました
・企業はリース会社へリース契約を中途解約するかどうか迷っています
(評価損とは)
・修理しても外観や機能に欠陥を生じた場合や事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合、評価損といい、損害賠償請求が認められることがあります
・評価損が認められるかどうかは一概に言い難いものの、経過期間、走行距離、車両代金、車両の種類や用途、構造上や機能上の欠陥の内容によります
・評価損は、通常、修理代金に一定割合(1~3割程度)を乗じた金額で算定され、事故前後の車両時価の差額等では算定されることはあまりありません
(自社所有車両の評価損の帰趨)
・自社所有車両について評価損を主張したい場合、前述した事情や資料を基に交渉しますが、交渉では認めて貰い難く、訴訟が必要になることもあります
(リース車両の評価損の帰趨)
・リース車両の評価損の場合、そもそも、車両の所有者(リース会社)ではないのに車両の使用者(企業)が事故の加害者へ損害賠償できるかという論点があります
・結論としては基本的に請求できないと考えられます(経済的全損とは異なる)
・もっとも、リース車両であっても、企業がリース会社へ事故後にリース契約を中途解約して中途解約違約金を支払っている場合で、評価損を理由に残価が低く査定されて中途解約違約金が増大しているようなときは、評価損相当額を請求することができると考えられます
・なお、所有権留保車両についても、評価損は基本的に請求できないと考えられますが、事故後に残クレジットを完済した場合には請求できるようです