所有者不明土地の取得と民法改正

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この記事は2022年6月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

今回は、令和5年4月1日に施行される改正民法(所有者不明土地関係)等について、特に不動産業の方々に知っておいていただきたく、書きました。

東日本大震災後の復興にあたり、住宅の高台移転や土地の区画整理などの用地取得で、所有者不明土地や相続登記未了土地の多数の存在が表面化しました。

そもそも、東日本大震災以前から、所有者不明土地や相続登記未了土地が放置されており、土地の有効利用や経済活動の阻害が指摘されてきました。

そこで、ここ数年、所有者不明土地について、取得や処分にかかる費用や時間を削減するための法令改正が、急激に進められています。

また、複数相続人間の長期間遺産分割未了の土地について、一部共有者が所在不明となった場合でも円滑な譲渡等を可能とする等の改正もなされました。

不動産業、開発用地の取得や相続物件の売却に携わる方にとって、所有者不明土地関係の法令改正に関する知識は、押さえておきたいものです。

なお、ここ数年の改正は、多岐・広範にわたるもので、全てを説明することは容易ではありませんので、今回の顧問通信は用地取得に絞りました。

参考:日本弁護士連合会 所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ

「新しい土地所有法制の解説:所有者不明土地関係の民法等改正と実務対応」

(有斐閣、初版、2021/12/18)

【1 所有者不明土地とは】

所有者不明土地の取得には各種法的手続の知識が必要です

【2 通常の所有者不明土地の取得の方法例】

登記簿上、所有者の住所氏名の記載があるが、所在不明の場合

【3 「表題部」所有者不明土地の取得の方法例】

登記簿上、所有者の氏名しかわからず、特定不能な場合

【1 所有者不明土地とは】

所有者不明土地の取得には各種法的手続の知識が必要です

(所有者不明土地とは~特定不能または所在不明~)

・所有者不明土地とは、「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」を言います(改正民法264条の2参照)

(なお、「土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分」も含まれます)

・通常、土地の所有者は、その不動産登記簿等の記載から、確認することができますが、時々、次項で述べるような土地があります

(所有者不明土地の具体例)

①不動産登記簿に所有者の住所と氏名が記載されており所有者を特定できるが、所有者がその住所に既に居住しておらず所在不明となっている土地

(登記上の住所及び氏名では不在籍証明書と不在住証明書しか取得できない等)

②不動産登記簿に所有者の住所と氏名が記載されており所有者を特定できるが、所有者が既に死亡しており、相続人が判明しないまたは存在しない土地

(単に相続人が多すぎるだけでは「所有者不明土地」にあたらない点に注意)

③不動産登記簿に所有者に関する情報が一部しか記載されておらず(氏名のみ等)、所有者を住所及び氏名をもって特定することができない土地

(表題部に所有者の氏名が記載されているのみで、権利部の記載がない等)

④不動産登記簿に表題部しかなく、所有者欄に「大字○○共有」または「共有惣代○○」とだけ記載されており、所有者を特定することができない土地

(なお、このような土地は自治会の所有地であることが多いようです)

(所有者不明土地による経済活動の阻害)

・本来、土地を取得・処分は、土地の所有者と土地の取得希望者の間の取引で行いますから、所有者が不明であれば、土地の取得・処分は一切進みません

・郊外の広大な遊休地を敷地とする大規模開発事業を行うとした場合、所有者不明土地が取得できず、事業の進行に悪影響を及ぼすことがあります

・隣地所有者が所有者不明土地を含む土地を長期間にわたり一体的に使用していた場合でも、取得時効による所有権移転登記ができないことがあります

・土地が共有で共有者の1名が所在不明となっている場合、その他の共有者が土地を売却しようとしても、思うように売却できないことがあります

【2 通常の所有者不明土地の取得の方法例】

登記簿上、所有者の住所氏名の記載があるが、所在不明の場合

(通常の所有者不明土地(所在不明土地)の取得)

・所有者不明土地であっても、一定の場合には取得することができ、改正民法でその方法(制度)が拡充されています

(設例1・第三者が共有状態の所有者不明土地を取得したい場合)

・企業Aが登記簿に個人Bと個人Cの住所と氏名の記載がある土地を購入したいものの、所有者BもCもそれぞれの住所に既に居住しておらず所在不明となっている場合、購入するには例えばどのような方法があるでしょうか

・従前の方法の例
a1)不在者財産管理人選任の申立て+売買契約の締結

取得希望者が弁護士へ不在者財産管理人選任の申立てを依頼して、弁護士が役所から不在籍証明書及び不在住証明書を取得して、弁護士が家庭裁判所へ不在者財産管理人選任の申立てをすることが考えられます

取得希望者は不在者財産管理人から購入することが考えられます

なお、所有者名義人が死亡している可能性があっても、公的資料で死亡を確認できないときには、相続財産管理人選任の申立てではなく、不在者財産管理人選任の申立てによるべきというのが、家裁の実務のようです

もっとも、この方法には以下のコストやリスクが考えられます

① 家庭裁判所予納金として30~60万円程度かかる可能性がある

② 共有状態の場合、各所有者名義人につき申立てをする必要がある

③ 取得希望者というだけでは利害関係人にあたらない可能性がある

④ 購入金額の高低や農業委員会許可の可否が問題となることがある

・令和5年4月1日施行の改正民法による方法の例
b1)所有者不明土地管理命令の申立て+売買契約の締結

取得希望者が弁護士へ所有者不明土地管理命令の申立てを依頼して、弁護士が役所から不在籍証明書及び不在住証明書を取得して、弁護士が地方裁判所へ所有者不明土地管理命令の申立てをすることが考えられます

取得希望者は所有者不明土地管理人から購入することが考えられます

所有者不明土地管理命令は以下の点でコストやリスクを軽減できます

① 不在者財産管理人に比べて予納金が比較的安く済むことが多い

② 共有状態でも、所有者不明土地管理命令申立1件で対応できる

③ 利害関係人に認められやすい(法制審部会資料33・66頁)

(設例2・隣地所有者が所有者不明土地を時効取得したい場合)

・個人Aが、登記簿に個人Bの住所及び氏名の記載がある土地と、その隣地である個人Aの自己所有の土地を、長期間にわたり一体的に使用していました

個人Aが個人Bの土地を取得したいものの、所有者Bが住所に既に居住しておらず所在不明となっている場合、例えばどのような方法があるでしょうか

・従前の方法の例
a1)不在者財産管理人選任の申立て+売買契約の締結

前述した方法と同じです

a2)不在者財産管理人選任の申立て+取得時効の主張・訴訟

不在者財産管理人選任の申立てをしたうえで、取得希望者が不在者財産管理人へ取得時効を主張する(ひいては提訴する)ことが考えられます

この場合、うまくいけば、土地の購入費用が不要になり、農業委員会許可の問題も回避できますが、取得時効を立証する証拠が必要であり、証拠収集、交渉や訴訟追行の時間や費用(通常は取得希望者が弁護士に依頼することになります)が必要になります

なお、不在者財産管理人選任の家庭裁判所予納金も必要で、訴訟対応が必要となる分、若干高くなる可能性があります(50~60万円等)

a3)取得時効の訴訟提起+公示送達の申立て

取得希望者が弁護士へ取得時効を原因とする所有権移転登記手続請求訴訟を依頼して、弁護士が役所から不在籍証明書及び不在住証明書を取得して、弁護士が地方裁判所へ訴訟提起することが考えられます

その際、公示送達の申立てを行うことになります

不在籍証明書及び不在住証明書とともに所在調査報告書を提出することで、「当事者の住所、居所その他送達すべき場所が知れない場合」として、訴状を送達できなくても判決を取得することが考えられます

この場合、不在者財産管理人選任の家庭裁判所予納金は不要であるほか、上記a2と同様に、土地の購入費用が不要になり、農業委員会許可の問題も回避できますが、取得時効を立証する十分な証拠が必要となります

・令和5年4月1日施行の改正民法による方法の例
b1)所有者不明土地管理命令の申立て+売買契約の締結

前述した方法と同じです

b2)所有者不明土地管理命令の申立て+取得時効の主張・訴訟

所有者不明土地管理命令の申立てをしたうえで、取得希望者が所有者不明土地管理人へ取得時効を主張する(提訴する)ことが考えられます

所有者不明土地管理人選任の地方裁判所予納金も必要で、訴訟対応が必要となる分、若干高くなる可能性があります

【3 「表題部」所有者不明土地の取得の方法例】

登記簿上、所有者の氏名しかわからず、特定不能な場合

(「表題部」所有者不明土地(特定不能土地)の取得)

・所有者不明土地のうち、権利部の記載がなく、表題部に氏名の記載しかない、表題部に「A外○名」「大字B」「共有惣代C」「共有惣代D外○名」等の記載しかない等、住所または氏名の記載が不十分なため、所在不明以前に、所有者を特定できない土地があります(「表題部所有者不明土地」)

・表題部所有者不明土地については、事案により、改正民法のほか、「表題部所有者不明土地法」の活用、ポツダム政令の活用等が考えられます

(設例3・第三者が表題部に氏名の記載のみの土地を取得したい場合)

・企業Aが登記簿に権利部の記載がなく表題部に個人Bの氏名の記載はあるが住所の記載がない土地を購入したいものの、所有者を住所及び氏名をもって特定できない場合、購入するには例えばどのような方法があるでしょうか

・従前の方法の例
a1)不在者財産管理人選任の申立て+売買契約の締結

前述した方法と同じですが、表題部所有者不明土地の場合、所有者は、所在不明以前に、特定不能ですので(不在籍証明書や不在住証明書も取得できない)、不在者財産管理人選任は難しいものと思われます(私見)

・令和5年4月1日施行の改正民法による方法の例
b1)所有者不明土地管理命令の申立て+売買契約の締結

前述した方法と同じです(所在不明でも特定不能でも利用可能)

・「表題部所有者不明土地法」の活用
c)所有者等の探索の開始に関する職権発動の上申+特定不能土地等管理命令の申立て+売買契約の締結(私見)

取得希望者が、法務局へ、表題部所有者不明土地の所有者等の探索について職権発動を促す上申をすることが考えられます(私見・法3条参照)

表題部所有者不明土地は、登記官により所有者等の探索の後に特定不能の登記がなされると、「所有者等特定不能土地」となります

そこで、取得希望者が、地方裁判所へ、所有者等特定不能土地について、特定不能土地等管理命令の申立てをしたうえで、取得希望者が、特定不能土地等管理人から、所有者等特定不能土地を購入することが考えられますが、取得希望者は利害関係人にあたらない可能性があります(私見)

(設例4・第三者が表題部に「大字B」記載の土地を取得したい場合)

・企業Aが、登記簿に権利部の記載がなく表題部「大字B」(Bは地域名で、例えば福岡市赤坂)のみの記載がある土地を、購入したいものの、所有者を特定できない場合、購入するには例えばどのような方法があるでしょうか

・前提(「字持地」)

登記簿に権利部の記載がなく表題部「大字B」(Bは地域名で、例えば福岡市赤坂)のみの記載がある土地は、「字持地」と呼ばれており、かつて地域の共同体の財産であった場合が多く、自治会が所有している場合もあります

・令和5年4月1日施行の改正民法による方法の例
b1)所有者不明土地管理命令の申立て+売買契約の締結

前述した方法と同じです(所在不明でも特定不能でも利用可能)

・不動産登記手続による解決
d)認可地縁団体による表題部所有者更正登記の申請+認可地縁団体による所有権保存登記の申請+売買契約の締結(私見)

「大字B」について、自治会の存在の調査を行い、「大字B」と同一である認可地縁団体が存在している場合、認可地縁団体が法務局へ当該土地の表題部所有者更正登記の申請及び所有権保存登記の申請をして、登記簿上も所有者を当該認可地縁団体とすることが考えられます(私見)

なお、認可地縁団体となっていない場合には、権利能力なき社団のままでは登記できないため、認可地縁団体を設立することが必要になります

また、上記の方法は、登記申請の際、「大字B」と認可地縁団体の同一性や認可地縁団体の当該土地の所有等を立証する必要があります

認可地縁団体等の協力が必須ですが、上手くいけば、取得希望者は認可地縁団体から当該土地を購入することができるかもしれません

e)ポツダム政令(昭和22年政令第15号)に基づく市町村による所有権保存登記の申請+売買契約の締結(私見)

※ 「昭和20年勅令第542号ポツダム宣言受諾に伴い発する命令に関する件に基づく町内会部落会又はその連合会等に関する解散、就職禁止他の行為の制限に関する政令」

「大字B」の土地が戦前の自治会が所有していた土地である場合には、ポツダム政令2条により、当該土地の所有者は地方公共団体となります

そこで、地方自治体が法務局へ当該土地の所有権保存登記の申請をして、登記簿上も所有者を地方公共団体とすることが考えられます(私見)

なお、上記の方法は、登記申請の際、「大字B」と戦前の自治会の同一性や戦前の自治会の当該土地の所有等を立証する必要があります

自治会や地方公共団体の協力が必須ですが、上手くいけば、取得希望者は地方公共団体から当該土地を購入することができるかもしれません

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