中小企業が押さえておきたい「下請法」

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この記事は2021年8月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

いつもご相談ありがとうございます。
今回は、下請法(下請代金支払遅延等防止法)について、書いてみました。

一言で言うと、元請と下請の間の取引も、契約書も作成しなければならない、商品受領拒否や代金支払遅延等をしてはならない、という下請保護の法律です。
中小企業は元請側・下請側のいずれの立場に立つこともあり、皆さんも下請法という法律があることは聞かれたことがあるのではないでしょうか。
しかも、報道によると、2020年はコロナ禍で下請法違反が過去最多の8111件となったそうで、来年は下請法の適用対象拡大の改正も検討されているようです。

下請法は、条文数が12条と少ないわりに、特に適用対象がわかりにくい法律となっていますので、下請法の適用対象を中心に整理してみました。
また、最後の方で「下請かけこみ寺」についても簡単に紹介してみました。
文章が長くなり恐縮ですが、下請法は押さえておいて損のない法律です。

公正取引委員会・中小企業庁・下請法ガイドブック
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/pointkaisetsu.pdf

【1 下請法の適用対象の取引や資本金の額】

複雑ですが、下請法の適用対象を確認しましょう

【2 下請法の適用による親事業者の遵守事項】

取引の段階ごとの遵守事項を確認しましょう

【3 下請法違反の効果と下請事業者の対処】

下請法違反はレピュテーション・リスクがあります

【1 下請法の適用対象の取引や資本金の額】

複雑ですが、下請法の適用対象を確認しましょう

(下請法の適用対象となる取引)

・請負や委任のほか、「委託」があれば、売買も適用対象に含まれます
「委託」とは、発注する物品等の仕様や内容等を指定することを本質として、その典型は、企画、品質、性能、形状、デザイン、ブランド等の指定です
委託者の指定がある場合、受託者の負担が大きくなるため、適用対象です

・現時点で下請法の適用対象となる取引は、次の4つです
①製造委託 / ②修理委託 / ③情報成果物作成委託 / ④役務提供委託

(製造委託)

ⅰ 販売業者から、他の事業者への、販売目的物品や部品の製造委託
ⅱ 製造業者から、他の事業者への、製造目的物品や部品の製造再委託
ⅲ 修理業者から、他の事業者への、修理用部品の製造委託
ⅳ 業者から、他の事業者への、自社製造の自社設備等の製造委託
ⅵ 上記ⅰ、ⅱ及びⅳにおいて物品等の製造に用いる金型の製造委託

・製造業における下請は上記ⅱで、小売業における単なる仕入は対象外です
PB商品は上記ⅰで、OEM供給は上記ⅱです

(修理委託)

ⅰ 修理業者から、他の事業者への、修理の委託
ⅱ 業者から、他の事業者への、自社修理の自社設備等の修理委託

・なお、保守点検は「役務提供」にあたり「修理」にあたりませんが、保守点検に伴う修復は「修理」にあたります

(情報成果物作成委託)

ⅰ 提供業者から、他の事業者への、プログラム等の作成委託
ⅱ 作成業者から、他の事業者への、プログラム等の作成再委託
ⅲ 業者から、他の事業者への、自社作成の自社プログラム等の作成委託

・プログラムのほかに、映像・音声、ポスター等の作成が対象になります

・通常、小売業者から他の事業者への自社のウェブサイトやチラシ等の作成を注文したとしても、対象外ですが、小売業者が社内業務として自社のチラシを作成している場合、小売業者から他の事業者への作成の注文が自家使用の情報成果物の作成委託にあたる可能性があることは、注意が必要です

(役務提供委託)

ⅰ 役務提供業者から、他の事業者への、役務の提供委託

ただし、建設業者の建設工事は除外されています(建設業法の適用あり)
もっとも、建設業者も設計事務所等へ建築設計業務の一部を委託すれば、情報成果物作成委託の親事業者として下請法の適用対象となります

・具体例は、運送・物品の倉庫保管・ビルメンテナンス・情報処理です

(下請法の適用対象となる事業者の資本金の現状と今後)

・前述した下請法の適用対象となる取引であっても、取引当事者間で事業規模(資本金)に格差がある場合のみ、適用対象となるのが現状です

・原則

親事業者の資本金 下請事業者の資本金 下請法の適用
3億超 3億円以下または個人 適用
3億円以下1000万円超 1000万円以下または個人 適用
1000万円以下 (下請法不適用)★改正? 不適用★改正?

・役務提供や情報成果物作成(運送、倉庫保管、情報処理、プログラムを除く)

親事業者の資本金 下請事業者の資本金 下請法の適用
5000万円超 5000万円以下または個人 適用
5000万円以下1000万円超 1000万円以下または個人 適用
1000万円以下 (下請法不適用)★改正? 不適用★改正?

※長澤哲也ほか「Q&Aでわかる業種別下請法の実務」(学陽書房)に一部加筆

・報道によると、今後は、法律改正がなされる見通しであり、親事業者の資本金が1000万円以下であっても、下請事業者がフリーランス(個人)であれば、下請法が適用されることになりそうです
コロナ禍で、1000万円以下の中小企業とフリーランス(個人)の間で、報酬未払、納期の一方的な変更、契約書未作成等、取引における不当な取り扱いが増加していることが背景のようです
今後は中小企業も親事業者として下請法の規制を受ける場面が増えそうです

(下請法の適用対象に関する例外等)

・前述したように、取引当事者の資本金により適用の有無が決定されますが、トンネル会社が介在している場合には、取引は、トンネル会社と下請事業者の間ではなく、トンネル会社を支配している事業者と下請事業者の間にあると判断されるため、資本金も支配事業者と下請事業者に関して判断されます
・なお、親事業者と下請事業者が会社法の親子会社やいわゆる兄弟会社である場合には、下請法を適用しないという運用がなされています

【2 下請法の適用による親事業者の遵守事項】

取引の段階ごとの遵守事項を確認しましょう

(発注段階) ※ 契約書の作成・交付

・取引の基本事項は、発注時に書面に明確に記載して交付する必要があります
なお、正当な理由がある場合、一部の事項は記載しないことも可能です

・委託内容について
給付対象(品目、品種、数量、規格、仕様等)
納期(期日 ※期間発注は不可)、受領場所、検収期日

・下請代金について
金額 ※ 不当に著しく低い金額(原価割れ、一方的な指定等)は不可
支払期日 ※ 納品日(検収完了日ではない)から60日以内
支払方法 ※ 支払期日以降の満期到来手形や手形割引料の負担は不可

・有償支給材について
品名、数量、対価、引渡期日、決済期日及び決済方法
なお、有償支給材の代金決済を下請代金の決済より先にすることは不可

・内示や発注予測の提供について
内示により委託業務の着手を強いる場合、発注として取り扱われることも
なお、契約書がない場合の救済としては、商法509条や512条もあります

(発注後~受領前段階) ※ 不当な契約変更や受領拒否の禁止

・発注後、契約内容を変更することは原則として禁止されています
これは親事業者と下請事業者の間の協議による場合でも同様です
契約内容の変更が許される場合としては、下請事業者に帰責事由がある場合、下請事業者の利益を不当に侵害しない場合に限られます

・発注後、製品等の受領を拒否することは原則として禁止されています
これは親事業者と下請事業者の間の協議による場合でも同様です
受領拒否が許される場合としては、下請事業者に帰責事由がある場合です
もっとも、軽微な仕様違反や影響小の納期遅れは帰責事由にあたりません

(受領段階・支払段階等) ※ 支払遅延や代金減額の禁止等

・発注後、支払遅延や代金減額をすることは原則として禁止されています
これは親事業者と下請事業者の間の協議による場合でも同様です

・上記以外にも、取引に附随して、経済上の利益提供を要請することの禁止等、一定の遵守事項があります(下請法4条)

【3 下請法違反の効果と下請事業者の対処】

下請法違反はレピュテーション・リスクがあります

(下請法違反自体の効果)

・勧告 ※ 下請法4条違反の場合
公正取引委員会が親事業者へ行い、下請事業者の不利益解消や、親事業者における再発防止について、必要な措置を講じるよう求める法的措置です
令和2年度は公正取引委員会のウェブサイトで4件が実名公表されています
勧告に従わない場合、独禁法違反で排除措置命令等を受ける可能性も

・指導 ※ 書類交付等(下請法3条違反や5条違反)も含む
勧告に至らない程度の違反について、公正取引委員会または中小企業庁が親事業者へ行い、必要な措置を講じるよう求めるものです

・刑事罰 ※ 書類交付等(下請法3条違反や5条違反)の場合
書類交付等に違反した場合、親事業者の代表者や従業員等は、50万円以下の罰金を科されることがあります

(下請事業者の対処)

・下請法違反自体に民事上の効果はありませんので、下請法違反であったとしても、当然に下請代金が支払われるというものではありません

・そのため、王道的な対応としては、交渉や訴訟で下請代金の支払を求めていくことになりますが、特に契約書等がない場合には、なかなか大変です
当時の連絡状況や業務内容に関する資料を収集・整理して、口頭やメール等による合意内容や遂行した業務内容を明確にする必要があります
商法509条や512条により、明確な契約締結がなかったとしても、下請代金を請求することができることがあります

(下請かけこみ寺の活用)

・なお、経済産業省・中小企業庁は各地に「下請かけこみ寺」を設置しており、そこでも下請法違反に関する相談をすることができます

・下請代金の未払についても相談することができ、ADRも実施されています
ADRは裁判外紛争解決手続であり、紛争当事者の双方が調停に出席して、それぞれの言い分を別々に述べる等して、解決を図ることも可能です
下請代金の支払を合意できるとは限りませんし、ADRの合意内容に強制執行力はありませんが、一旦合意することができれば、もし履行されなかった場合でも、合意を根拠にすることができ、訴訟が容易になるでしょう

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