コロナ禍と債務整理ガイドライン

この記事は2020年10月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

いつも、ご相談、ご活用いただき、ありがとうございます。

今回は、コロナ禍と債務整理ガイドラインについて書かせていただきます。

昨今のコロナ禍の下、令和2年12月1日から、新型コロナウイルスの影響で債務の返済が不能になった個人や個人事業主が借り入れた債務を減免する特例措置が適用されることになりました(「自然災害債務整理ガイドライン」の改訂)。

様々な事情で個人や個人事業主が金融機関等へ負債を返済できなくなることがあり、その解決方法としては、破産、民事再生、任意整理等の方法がありますが、「債務整理ガイドライン」を利用することで本人の負担を軽減できます。

なお、中小企業の経営者等については、別途、「経営者保証ガイドライン」というものが定められていますが、そちらについては、近いうちに機会をあらためてお知らせしたいと思います。

借入をきちんと返済できることが理想ですが、コロナ禍のように予想しがたい困難に直面することがあることも事実です。安心して経営に専念していただく一助として、事前に万一の対処方法を頭の片隅に置いていただければと思います。

【1 破産・民事再生・任意整理などの解決方法】

【2 債務整理ガイドラインの利用の対象・メリット】

【3 債務整理ガイドラインの利用の方法など】

 

【1 破産・民事再生・任意整理などの解決方法】

負債の内容、金額、原因などを基に、解決方法を選択していきます

(破産) ※ 裁判所を利用する、支払能力がない場合

免責決定が下りれば、通常の借金は返済不要になります(税金は残ります)

・ 弁護士等の専門家に依頼して行います(通常30万円以上)

・ 依頼から免責決定までに半年前後(~1年超)かかります

・ 手元に住宅等の資産は残りませんが、一部の資産(預貯金20万円以下、5年以上経過の自動車等。例外あり。)を手元に残せる場合もあります

・ 資産が一定以上ある等、裁判所が必要と判断した場合には、破産管財人が選任され、別途費用が必要になることがあります(通常20万円以上)

(民事再生) ※ 裁判所を利用する、支払能力が一応ある場合

3年間に負債の20%以上を分割払いすれば、残債が返済不要になります

・ 弁護士等の専門家に依頼して行います(通常30万円以上)

・ 依頼から認可決定までに半年以上かかります

・ 認可決定後の分割払いの期間は原則3年間(最長5年間)です

・ 手元の資産は残せることが多いです(ローン支払中の資産は残せない)

・ 住宅についてはローン支払中でも資産として残せる場合があります

・ 破産に比べると民事再生は条件が比較的緩やかです

(任意整理) ※ 裁判所を利用しない、支払能力が一応ある場合

各債権者との個別の交渉により3年間などの分割払いを合意します

・ 弁護士等の専門家は必須ではありません(依頼すると1社3万円程度)

・ 解決方法は様々で、全ての債権者を対象としないことも一応可能です

・ 任意整理でも事故情報として記録されます

(特定調停) ※ 裁判所で行う話し合い、支払能力が一応ある場合

裁判所において実施する任意整理の一種です(但し、合意に強制力が付く)

・ 弁護士等の専門家は必須ではありません

・ 裁判所に出頭する必要があり、相応の書類を提出する必要があります

・ 特定調停申立により強制執行を停止することができます(例外あり)

・ 特定調停で合意した内容は判決と同一の効力があります ※ 要注意

・ 後述する「債務整理ガイドライン」の利用の際にも登場する手続です

 

【2 債務整理ガイドラインの利用の対象・メリット】

一定の要件を満たす方が対象ですが、事故情報は記録されません

※ コロナ禍関係で債務整理ガイドラインが改訂されました

(対象)

・ 対象は、「災害救助法」が適用された自然災害により被災した個人または個人事業者の方、になります

・ もっとも、コロナ禍も「災害救助法」における自然災害に含まれることとなるそうです

・ そのため、新型コロナウイルスの影響で収入が激減した家庭や個人事業主であれば、債務整理ガイドラインを利用できることになるそうです

・ 法人は対象とはなりません

・ 対象となる負債は住宅ローン、自動車ローン、事業性ローンなどです

・ 債権者にとって一定程度有利となる見込みがある等、条件があります

(メリット)

・ 個人信用情報に事故情報として登録されません

そのため、将来の新規の借入に悪影響はありません

・ 弁護士等の「登録支援専門家」の費用が無料です

そのため、手元資金に乏しくても利用できます

・ 資産の一部を手元に残すことができる場合があります

住宅ローン支払中でも住宅を残せる場合があります

・ 債権者が個人保証人へ請求することは原則として制限されます

保証人に迷惑をかける心配がありません

(備考)

大規模な自然災害でローンの返済が困難になった方へ ご利用ください。 「自然災害債務整理ガイドライン」 | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン ※ ただし、コロナ禍の適用以前に関するもの

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201607/1.html

一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関

http://www.dgl.or.jp/

 

【3 債務整理ガイドラインの利用の方法など】

登録支援専門家の支援を受けながら進めましょう

(方法)※ 以下は弁護士会の資料を参考に概要を記載したものです

①【手続着手の申出】

ご本人ご自身で、主な金融機関へ、債務整理ガイドラインを利用する旨を口頭で伝える必要があります。

②【登録支援専門家の委嘱】

ご本人は、弁護士会等を通じて全国銀行協会へ、登録支援専門家の委嘱を依頼します。

ご本人は、登録支援専門家から、支援を受けて、以下を進めます。

③【債務整理の申出】

ご本人は、全対象債権者に対し、債務整理ガイドラインを利用した債務整理を申し出て、財産目録・債権者一覧表等の書類を提出します。

④【調停条項案の作成提出】

ご本人は、③の申出から原則3ヶ月以内に、全対象債権者に、調停条項案を提出します。提出前に事前協議を行い、提出後も説明を行います。

⑤【同意・同意見込みの回答】

対象債権者は、④の説明等から原則1か月以内に、調停条項案の同意・同意見込みを回答します。

⑥【特定調停の申立て】

全対象債権者の同意を得たご本人は、簡易裁判所に対し、特定調停の申立てを行い、調停成立により終了。

(解決方法の類型)

・ 類型としては、収入弁済型、清算型、事業継続型があり、それぞれで、どのような財産をどの程度残すことができるか、微妙に変わってきます

・ 収入弁済型(主に、サラリーマンで今後も給与収入が継続する場合)であれば、手元の資産は基本的に全て残したまま、相応の額を弁済すれば、残額は免除されることがあります

・ 事業継続型(主に、個人事業主で将来の収益により事業継続を図る場合)であれば、手元の資産は基本的に全て残したまま、相応の額を弁済すれば、残額は免除されることがあります

・ 清算型(今後の収入が見込めない場合)でも、一定程度の資産は手元に残せる場合があります ※ コロナ禍関係で改訂作業がされました

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