契約書の作成やチェックのヒント

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この記事は2021年2月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

今年もよろしくお願いいたします。

昨今、顧問先企業様などから私へ契約書のチェックを依頼したいとのご要望をお受けする機会がとても増えており、大変ありがたく思っております。

そこで、今回は、契約書の作成やチェックの際のヒントとして、取引の頻度や金額等に応じた方法による契約書の作成等について、書きました。

今回は、少々読みづらく感じられる方もいらっしゃるのではないかとは思い、恐縮ではありますが、日ごろ、契約書を交わす中で、契約書の使い分けや様々な条項の意味、誰がどのような観点で契約書を検討すべきかについては、ある程度整理しておいてもよいのではないかと思います。

契約書を調印するように求めたり、契約条項をめぐり交渉したりすることは、商談を停滞・中断させかねず、経営者としては契約書を後回しにしたくなるところですが、それは将来への問題の先送りになりかねませんので、適切な範囲で時間や費用をかけて対処できるとよいのではないかと思います。

【1 売買や業務委託における契約書の作成】

取引の頻度や金額等に応じた方法で契約書を作成しましょう

【2 様々な附款(条項)の例と契約締結交渉の例】

損害賠償の上限の設定等、知っておいて損はありません

【3 契約書のチェックの観点と役割分担】

商品やサービスの内容に関する部分は特に自社で確認しましょう

 

【1 売買や業務委託における契約書の作成】

取引の頻度や金額等に応じた方法で契約書を作成しましょう

(設例)

・ここでは、事業者間で商品を引き渡して代金を支払う旨の売買契約と、事業者間で業務を遂行して代金を支払う旨の業務委託契約について、検討します

・売買のように、一回の履行(商品の引渡しと代金の支払い)で契約関係が終了する契約を、「一時的契約」と言います

・業務委託(請負または委任)のように、一定期間の契約関係の存続(業務の遂行と代金の支払)を前提とする契約を、「継続的契約」と言います

(売買(一時的契約)における契約書の作成)

① 取引頻度が少なく、取引金額や損害賠償も小さい場合

商品、代金等、納期、支払期限等だけ合意すれば足りるものと思われます

そのため、取引の際、簡潔な注文書と注文請書などを交わすとよいでしょう

② 取引頻度が少ないが、取引金額または損害賠償が大きい場合

損害賠償上限等の様々な附款(条項)も、合意することが望ましいでしょう

そのため、取引の際、十数条にわたる売買契約書を交わすとよいでしょう

③ 取引頻度が多いが、取引の都度、商品や代金の数量や期限を合意する場合

損害賠償上限等の様々な附款(条項)も、合意することが望ましいでしょう

もっとも、取引の都度、十数条にわたる売買契約書を交わすのでは煩雑です

取引開始時、損害賠償上限等の様々な附款(条項)を、基本契約(取引基本契約書)で合意したうえで、別途、取引の都度、商品や代金の数量や期限を、個別契約(注文書、注文請書等)で合意することが考えられます

④ 取引頻度が多く、取引開始時、商品や代金の数量や期限まで合意する場合

損害賠償上限等の様々な附款(条項)も、合意することが望ましいでしょう

売買は一時的契約ですが、事前に決定した数量を定期的に販売(購入)するのであれば、継続的売買契約書等を交わすことも考えられます

(業務委託(継続的契約)における契約書の作成)

業務委託(継続的契約)では、代金や損害賠償が大きくなることが多いため、損害賠償上限等の様々な附款(条項)も、合意することが望ましいでしょう

★ 損害賠償上限等の様々な附款(条項)については、次頁で例示しています

★ なお、特定の者と不特定多数の者の間の定型取引では定型約款を使用する方法もありますが、要件を満たす必要があります(改正民法548条の2)

 

【2 様々な附款(条項)の例と契約締結交渉の例】

損害賠償の上限の設定等、知っておいて損はありません

(様々な附款(条項)の例)

・取引金額や損害賠償が大きい場合等、商品、代金等の契約の要素や、納期、支払期限等の基本的な附款だけでなく、以下に例示する様々な附款(条項)も合意することが望ましいでしょう

・秘密保持義務

取引に際して取得した営業秘密や個人情報を第三者に開示しない旨

・個別契約の成立要件

※特に基本契約において 注文書と注文請書により契約が成立する旨

・任意解除権(中途解約権)

※特に継続的契約において *か月前に通知することで契約を解除できる旨

・検収

検査方法、検査規格に基づき受入検査を行い合格したもののみ受け入れる旨

・契約不適合責任(以前の「瑕疵担保責任」と概ね同じ)

軽微な契約不適合については返金ではなく修補または交換で足りる旨

・損害賠償

損害賠償責任を直接かつ現実に生じた通常の損害に限定する旨

・その他、契約解除権(解除事由)、期限利益喪失、反社会的勢力排除、不可抗力免責、有効期間、合意管轄 等々

(契約締結交渉の例)

・契約締結交渉では、商品や代金だけでなく、契約上の様々な附款(条項)、特に損害賠償条項が問題になることがすくなくありません

・売主(または受注者)としては、万一、商品やサービスに問題があった場合、損害賠償を限定したい、買主(または発注者)としては、全額の損害賠償とすることで、くれぐれも問題がないようにして欲しい等と考えがちです

・買主は、売主へ、民法上は損害賠償に上限を設定することなど原則とされておらず、応じられない等と主張することになるでしょう

・売主は、買主へ、買主が事業機会損失を含む多大な損害を被ったときでも、売主が全額賠償する資力はなく、できないことは約束できない、商品やサービスに絶対ということはなく、全額賠償としても品質は向上できない、全額賠償が前提とした代金提示ではない等と主張することになるでしょう

※ 双方のメリットを意識して取引実態に即した公平な条項を目指しましょう

 

【3 契約書のチェックの観点と役割分担】

商品やサービスの内容に関する部分は特に自社で確認しましょう

(商品やサービスの内容の書面における明確性・整合性)

→ 特に当事者において確認すべきことです

(書面だけでは弁護士は確認できない)

・特に契約締結時点で商品やサービスの見本・サンプルが存在していない場合、商品やサービスについて、別途、仕様書、企画書、設計図等を活用すること(あるいは商品製造やサービス提供に費やす人員、材料、期間や時間や方法など、外形的な観点で規定すること)で明確化する必要があります

特にITシステム開発において、契約締結時点で、顧客が要望を明確にすることや、業者が開発内容を明確にすることは、簡単ではないのでしょうが、これを仕様書等に明確にしないままで契約を締結して履行に着手すると、後々、システムの検収が完了しない等、紛争になることが考えられます

・また、実際の業務と書類の記載の間に整合性を取らないまま、口頭でのやり取りだけに依拠して仕様の追加変更等の要望に対応して履行すると、後々、追加変更費用を支払ってもらえない等、紛争になることが考えられます

(権利義務の明確性・契約書間や条項間の整合性)

→ 特に弁護士において確認すべきことです

(書面だけでも弁護士も一応確認できる)

・契約書の記載は、後々当事者双方が自己に有利な解釈を主張して紛争となることのないよう、内容が具体的で一義的に明確である必要や、条項間や契約書間で内容が整合している必要があります

(条項の合理性・公平性・合法性)

→ 当事者と弁護士において確認すべきことです

(書面だけでも弁護士も一応確認できるが、最終的に契約するかは経営判断)

・時折、発注側と受注側の取引上の力関係のせいか、一方の義務ばかり極端に加重されている、不公平な契約書の調印を求められることがあります

・著しく不合理な条項や強行法規違反は、法的には無効となることがあり、このような規定を残すことは後々の紛争の原因にもなりかねません

・また、独禁法や下請法等の観点から、法令に違反していないか、優越的地位の濫用等にあたらないか、検討が必要になることもあります

・最終的に契約するかは経営判断ですが、慎重に検討する必要があります

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