新規事業と法律トラブル

この記事は2020年8月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

いつも、ご相談、ご活用いただき、ありがとうございます。
今回は、新規事業と法律トラブルというテーマで書かせていただきました。

昨今のコロナ禍、事業者様のなかには、社会変動を新たなビジネスチャンスと捉えて(あるいは既存事業の業態変更を余儀なくされて)、新規事業や新規商品、新規サービスを検討・推進されている方もすくなくないようです。

もっとも、事業・ビジネスには、通常、様々な法規制(許認可、業法、ガイドライン、業界自主規制、消費者保護関係、個人情報保護関係)がつきものです。
また、新規の商品やサービスで新規の取引先や顧客と取引をすることになり、そこでは、契約書が必要になりますし、想定外の出来事も発生するでしょう。
ただ、新規事業の立ち上げのタイミングを逃したくないあまり、法規制や契約内容等について十分に検討せず、見切り発車で進行してしまいがちです。

このように、新規事業では、既存事業と比べて、法律トラブルが発生しやすいと考えておくべきでしょう。

新規事業の検討・推進に安心して集中していただくためにも、法律トラブルを回避する体制づくりの一助としてお読みいただければ幸いです。

【1 新規事業の成功と法律トラブルの回避】

【2 新規事業における法律トラブルの回避術】

【3 コロナ禍における若干の具体例】

【1 新規事業の成功と法律トラブルの回避】

法律トラブルを回避できる体制がビジネスの信頼と成功に繋がります

(金融機関との関係)
新規事業を立ち上げる場合、その初期投資費用などを賄うため、企業は金融機関から融資を受けることになると思います。
その際、事業計画書を提出するでしょうし、各種規制に関する検討状況や、企業と取引先との契約内容などの説明も求められることもあると思います。
きちんとした説明ができれば、金融機関としても、その新規事業に司法リスクはすくないと判断して、融資に前向きになってくれるでしょう。

(取引先との関係)
新規事業を立ち上げる場合、その内容にもよりますが、企業が取引先から新規の商品を仕入れる(新規のサービスを外注する)ことも多いと思います。
企業と取引先との契約内容について、企業が取引先から呈示された契約書の案に何も意見を述べずに調印するのではなく、企業が取引先へ不明確・不平等な条項について意見を述べて交渉するのであれば、その後のトラブルの回避に繋がりますし、健全・対等な取引関係の構築にも繋がるでしょう。

(顧客との関係)
新規事業を立ち上げる場合、その内容にもよりますが、顧客誘引のため、企業は新規事業に関するウェブサイトを公開することも多いと思います。
その際、新規事業は、見込み客に限らない不特定多数の者から、正当不当を問わず様々な観点で批評されることを覚悟しなければなりません。
もし各種規制に関する対応が万全であれば、見込み客は企業と安心して取引ができると考えて、取引に前向きになってくれるでしょう。

(プラットフォームとの関係)
新規事業を立ち上げる場合、その内容にもよりますが、amazonや楽天市場等の既存のプラットフォームを利用することも多いと思います。
プラットフォームは「出店規約」等の利用規約を定めており、法規制に違反していた場合について、出店停止や違約金等の制裁が定められています。
プラットフォーム上で宣伝広告に多額の時間や費用をかける以上、出店前も出店後も、継続的に法規制を把握して対応しておく必要があります。

【2 新規事業における法律トラブルの回避術】

早い段階で弁護士等の専門家に相談するとよいでしょう

(許認可や全般について)
新規事業を立ち上げるにあたり、企業が最初に気になることと言えば許認可の要否ではないかと思いますが、下記が参考にしやすいと思います。
業種別開業ガイド | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/index.html

(法規制について)
ビジネスには、通常、様々な法規制がつきものであり、法規制の内容が頻繁に変更されますので、継続的に把握して対応しておく必要があります。
例えば、今年10月に煙草1箱の値段が数十円上がることから、今後は禁煙支援サービスの需要があると考えて、禁煙支援事業を起業するとしましょう。
この場合、禁煙支援として、各利用者がアプリを通じてサーバに過去の喫煙年数や日々の禁煙状況等を記録するのであれば、個人情報保護関連の法規制を受けるでしょうし、各利用者がアプリのAIから禁煙指導を受ける場合には、医師法・薬機法の規制の可能性を検討する必要があるかもしれません。
また、企業は一般消費者を相手にサービスを提供するでしょうから、消費者契約法、特定商取引法等の規制も受けることになりますし、アプリに各利用者と医療機関を仲介する機能を持たせるとすれば、厚労省令「保険医療機関及び保険医療養担当規則」への抵触の可能性も検討する必要があるかもしれません。
なお、法規制の有無や内容については、企業から行政機関に対して照会することもできます(ノンアクションレター制度、グレーゾーン解消制度)。

(新規の商品、サービス、取引先、契約書について)
新規事業では、企業と取引先の取引経験や信頼関係が十分ではありません。
新規事業のために企業が取引先から新規の商品を仕入れた(新規のサービスを外注した)ものの、希望していた品質ではなかったため、企業が顧客へ商品やサービスを希望していた金額で販売できなくなるということもあります。
トラブルを回避するためには、企業と取引先の間で、実際に取引を開始する前の段階で、商品やサービスの種類、期限・場所、種類・品質・数量等、商品やサービスが希望に沿わなかった場合の対応等について、かなり具体的に定めることが望ましいと言えます。

【3 コロナ禍における若干の具体例】

不安定な時代における安全・安心や、責任の負担

(飲食店のテイクアウト事業と許認可 ~ 食品の安全)
相当数の飲食店がコロナ禍で売上減少となり、その対策としてテイクアウト事業を開始していることは、皆さんご存じだろうと思います。
許認可については、お店に飲食店営業許可があればテイクアウトも基本的に問題ないとされていますが、商品や販売形態によっては確認が必要になります。
(焼肉店が飲食店営業許可のみ(食肉販売業なし)で顧客へ生肉を販売すると、食品衛生法違反となってしまう等。食品通販も飲食店営業許可のみでは×。)
なお、万一、残念ながらテイクアウトで食中毒が発生してしまった場合で、かつ、法令違反があったときには、保険対応もできない可能性があります。

(小売店の前売りチケット事業と許認可 ~ 資金決済の安全)
飲食店等の小売店がコロナ禍で休業することとなった際、営業再開後に使用できるチケットを、小売店(または第三者)が顧客へ販売することがあります。
小売店自身が顧客へ自らの店舗で使用可能な前売りチケットを販売する場合には、有効期限を発行日から6か月以内とすることで届出等は不要になります。
なお、第三者が顧客へ複数の店舗で使用可能な共通の前売りチケットを販売する場合には、有効期限に関わらず、資金決済法上の登録等が必要になります。

(新規商品の評価の変動と契約 ~ 不安定な時代の責任の負担)
コロナ禍で様々な衛生商品(マスク、消毒液等)の社会全体のニーズが急激に高まったことから、相当数の企業が新規事業として海外から新規商品を仕入れて販売することを検討・遂行したようです。
しかしながら、新規商品の一部は、過大な除菌効果を記載している、成分の表示が正確ではない等、表示が薬機法や景表法の法令に違反しているものや、科学的・医学的な効果に疑義を呈示されたものもあり、評価が低下しました。
新規商品の評価は、ニーズ変動や品質疑義等から、日々変動するものです。
そして、基本的に、売主は買主へ契約内容に従って期限までに指定の場所で種類・品質・数量等の商品を引き渡せば、それで済むことになり、新規商品の評価(価値)の変動(低下)リスクは買主が負うことになります。
これを避けるには、契約内容に、期限・場所、種類・品質・数量等、引き渡した商品が契約内容に沿わなかった場合の対応、商品の評価が異常に変動した場合の対応等について、かなり具体的に定める必要があるでしょう。

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