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この記事は2020年2月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
本年も、ご相談、ご活用のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
今回も、前回に引き続き、債権回収について書かせていただきました。
以下は、ご了解を得てお伝えするものです。
4年前に私はある中小企業から業務委託料の回収の依頼を受けていたのですが、3年間の訴訟を経て、2019年2月、取引先が依頼者へほぼ全額を支払う内容の訴訟上の和解が成立したにもかかわらず、不履行にされたため、1年間の多数回の強制執行を経て、2020年1月、ほぼ全額を回収することができました。
訴訟に通常の倍以上の期間がかかった理由は、見積書や注文書や請求書が一部しかなかったからで、大量のメールを整理して主張することに苦労しました。
回収に1年間かかった理由は、訴訟上の和解なのに支払がなされなかったうえ、ご依頼者さまが取引先の預貯金や売掛先等の情報を持っていなかったからでした。
最終的に解決したのでほっとしています。。。
【1 差押可能な資産の例】
まずはどのような資産が差押可能か把握しておきましょう
(差押えが可能な資産の典型例と主に必要な情報)
(回収の不確定要素が大きい資産の例と主に必要な情報)
(参考:法律上、差押禁止とされている資産の例)
【2 資産に関する情報収集~資産調査】
紛争発生前の情報収集から、勝訴確定後の資産調査まで
【あとがき】
回収できないこともありますが、粘り勝ちすることもあります
【1 差押可能な資産の例】
まずはどのような資産が差押可能か把握しておきましょう
(典型例)
差押えが可能な資産の典型例と主に必要な情報は、次のとおりです
預貯金は支店名の特定が、売掛金は取引内容の特定が、必要になりますが、差押えは取引先の銀行や売掛先からの信用低下と心理的な圧力に繋がります
・ 預貯金 ※ 口座のある銀行名・支店名
・ 売掛金 ※ 取引先の名称、取引内容
・ 貸金 ※ 貸付先の名称、貸付日
・ 賃料 ※ 賃借人の名称、物件
(応用例)
回収の不確定要素が大きい資産の例と主に必要な情報は、次のとおりです
敷金・保証金は明渡後でないと回収できない等、一定の条件があります
・生命保険解約返戻金 ※ 保険証券番号、保険内容
・火災保険解約返戻金 ※ 保険証券番号、保険内容
・敷金・保証金 ※ 賃貸人の名称、物件
・取引保証金 ※ 取引先の名称、預入日
・宅建業法の営業保証供託金等 ※ (官報検索で調査可能です)
・法人税還付金、消費税還付金 ※ 管轄税務署、決算期
(参考:法律上、差押禁止とされている資産の例)
・給与、賞与等 ※ 原則として4分の3の差押禁止
・退職金 ※ 原則として4分の3の差押禁止
・民間個人年金 ※ 原則として4分の3の差押禁止
・年金(民間個人年金を除く) ※ 全額差押禁止
・生活保護・児童手当等 ※ 全額差押禁止
・財産分与・慰謝料等 ※ 請求前のものにつき全額差押禁止
【2 資産に関する情報収集~資産調査】
紛争発生前の情報収集から、勝訴確定後の資産調査まで
(紛争発生前の情報収集)
※ 主にご依頼者さまにて取引開始時等の時点でご依頼者さまにて把握しておくことが望ましいです
取引先・同業者・関係者からの情報収集
取引先の取引銀行(できれば支店名まで)や売掛先(できれば取引内容や金額まで)を、うまく聞き出しておくとよいでしょう
特に売掛先と取引内容については、勝訴確定後の資産調査で弁護士にて調査することは困難ですので、紛争発生前の情報収集が重要です
なお、決算書のうち債権回収に役に立つのは勘定科目内訳明細書ですが、通常、勘定科目内訳明細書の開示を求めることは容易ではないと思います
その他の情報収集
ご依頼者さまの預貯金の取引明細(取引先からの入金時の入金元の記載)
取引先のウェブサイト(会社概要の取引銀行や売掛先の記載)
取引先の不動産登記情報(不動産の抵当権者(≒取引銀行)の記載)
(勝訴確定後の資産調査)
※ 主に弁護士にて
勝訴確定後の資産調査は弁護士ができることもすくなくありません
弁護士会照会
弁護士が所属弁護士会を通じて照会先に回答を求めるもので、勝訴確定後は強力ですが、弁護士から所属弁護士会へ1回約7000円の手数料を支払う必要があり、照会申出から回答受領まで1か月以上かかります
預貯金口座の有無、支店名、残高、取引明細を調査したい場合
→ 金融機関(ただし、一部の都市銀行は回答しないことがあります)
→ 電気通信事業者(電話料金の引落口座を回答することがあります)
売掛先の有無、名称、取引内容を調査したい場合
→ 金融機関(取引先の預貯金の取引明細から売掛金送金元を把握する)
なお、取引先の売掛先に照会するかどうかは悩ましいところです
生命保険や火災保険の有無、保険証券番号、保険内容を調査したい場合
→ 金融機関(取引先の預貯金の取引明細から保険料引落元を把握する)
→ 保険会社(保険料引落元を参考にして保険証券番号などを照会する)
計算書類閲覧謄写請求
会社法442条3項に基づき、債権者が、取引先(債務者である会社)に対し、計算書類等(貸借対照表、損益計算書、附属明細書等)を閲覧や謄写させるよう、請求することができます
閲覧謄写請求では、総勘定元帳や仕訳帳や勘定科目内訳明細書等は含まれませんので、取引銀行や取引先を把握することはできないでしょうが、交渉次第では、これらを任意に開示させることができるかもしれません
また、貸借対照表の記載から預入敷金や預入保証金や貸付金や未収還付法人税の有無等が、損益計算書の記載から賃料収入や保険料支払の有無等がわかれば、さらなる調査の手がかりになるかもしれません
【あとがき】
回収できないこともありますが、粘り勝ちすることもあります
前回は「費用対効果を意識した債権回収と留意事項」について書きましたが、今回は、交渉決裂~長期間にわたる訴訟~強制執行を念頭に、書いてみました
交渉決裂~長期間にわたる訴訟~強制執行という経過をたどる場合、その背景には取引先の資力の低下があることが多く、裁判費用程度しか回収できない事案もありますし、なかには1円も回収できない事案もありますので、ご依頼者さまにとっても担当した弁護士にとっても大変辛い状況になることがあります
もっとも、冒頭で述べた事案のように、資産調査と差押を粘り強く何度も繰り返すことによって、ほぼ全額を回収することができた事案もあります
仕事をして代金をもらうのは本来当然のことですが、時間や費用をかけてでも回収することは、プライドを回復させることにも繋がるかもしれません
不当な支払拒否をされないよう、勝訴しても回収に難航することがないよう、日ごろから契約書類関係の整備や取引先の情報収集を行うことが重要であることはもちろんですが、いざというときには、あきらめずに粘り勝ちを目指すことも重要ではないかと思います