暴排条項、使っていますか?

この記事は2019年8月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。

いつも、ご相談、ご活用いただきまして、ありがとうございます。
今回は、中小企業の反社会的勢力への対応について、書かせていただきました。

今夏のニュースでは、大手芸能事務所に所属する芸能人が反社会的勢力の宴会で演芸を披露して報酬を受け取ったことで、芸能人に対する世間一般からの非難や大手芸能事務所による処分が話題になりました。
それだけではなく、芸能人の待遇の低さ、大手芸能事務所と所属する芸能人との間に業務委託契約書等が交わされていなかったことから、大手芸能事務所のコンプライアンス軽視の姿勢を疑問視・非難する意見も相次ぎました。

かつて、暴力団対策と言えば、映画「ミンボーの女」(中小企業経営者は一度は見ておいて損はないです!)のような、民事介入暴力・不当要求が典型でした。
現在、暴力団を始めとする反社会的勢力への対応として、中小企業は、「不当要求の拒絶」だけでなく「取引を含めた一切の関係遮断」が求められています。
これを期に、反社会的勢力に組織的に対応できる自社の体制づくりや、契約書、誓約書、就業規則の整備等に取り組んでみてはいかがでしょうか。

【1 企業の反社への対応が必要になる場面とリスク】
「不当要求の拒絶」から「取引を含めた一切の関係遮断」へ
【2 取引を含めた一切の関係遮断のために】
組織的な対応のほか、契約書などの整備が必要です
【3 簡単ではない企業のホワイト化】
自社と反社会的勢力との関与を疑われてしまった場合

(お勧め)福岡県暴力追放運動推進センター
http://www.fukuoka-boutui.or.jp/

【1 企業の反社への対応が必要になる場面とリスク】
「不当要求の拒絶」から「取引を含めた一切の関係遮断」へ
(企業の反社への対応が必要になる場面)
・ 主な場面としては不当要求と助長取引(取引発覚)の2つがあります
・ 不当要求
不当要求は「接近型」と「攻撃型」に分類されます(政府指針参照)
「接近型」……反社会的勢力が、企業等へ、機関誌の購読要求、物品の購入要求、寄付金や賛助金の要求、下請け契約の要求を行うなど、「一方的なお願い」あるいは「勧誘」という形で近づいてくるもの
「攻撃型」……反社会的勢力が、企業等へ、企業のミスや役員のスキャンダルを攻撃材料として公開質問状を出したり、街宣車による街宣活動をしたりして金銭を要求する場合や、商品の欠陥や従業員の対応の悪さを材料としてクレームをつけ、金銭を要求する場合
接近型では、端的・明確に要求を拒否することが必要です
攻撃型では、調査等を行う必要がありますが要求自体は拒否すべきです
暴力団追放運動推進センター等にも対処法や相談先が記載されています
・ 助長取引(取引発覚)
助長取引とは、「事業者が、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をすること」を言います
例えば、企業が、取引相手が暴力団関係者であると知りながら、内装工事を行う、テナントを貸す、組の行事に弁当を配達する等です
なお、契約を締結した時点で取引相手が暴力団関係者であると企業が知らなかった場合、後日契約を履行しただけでは、助長取引にはあたりませんが、発覚次第、取引関係を解消する方向で検討しなければなりません
また、企業の直接の取引先自体が反社会的勢力でなくとも、その取引先が反社会的勢力と一定程度関与していることが発覚すれば、企業が直接の取引先自体と取引関係を解消する方向で検討しなければなりません
(対応を誤った場合のリスク)
・ 企業が暴力団等の不当要求や助長取引に応じた場合、条例違反(罰則等)だけでなく、信頼が低下して、金融機関の融資停止、競争入札の指名停止、大手企業の取引中止、一般市民の不買運動等、大きなリスクがあります

【2 取引を含めた一切の関係遮断のために】
組織的な対応のほか、契約書などの整備が必要です
(組織的な早期対応の体制づくり)
取引先自体やその関係先が反社会的勢力ではないかとの疑念が生じても、担当者に一任すると対応を躊躇したまま漫然と取引を継続しまいかねません
反社会的勢力に組織的に早期対応することを基本方針として宣言し、社内体制の整備、従業員の安全確保、外部専門機関との連携等を図りましょう
(取引先との関係)
・ 取引開始時の暴排条項入りの契約書・誓約書の調印 ★ 5頁参照
万一、企業が知らないうちに反社会的勢力と取引を開始しようとしていた場合でも、取引開始時に暴排条項入りの契約書・誓約書に調印するよう求めることで、企業が反社会的勢力を多少なりとも牽制することができます
また、企業の直接の取引先自体が反社会的勢力でなくとも、取引開始後にその取引先が反社会的勢力と一定程度関与していることが発覚した際、暴排条項入りの契約書・誓約書を調印しておけば契約解除が容易になります
・ 取引開始前後の情報収集
取引先自体やその関係先が反社会的勢力ではないか、企業が日常的に情報収集をしておくことは、取引回避や契約解除において、とても重要です
情報収集の方法としては、新聞、雑誌、インターネット、業界団体のほか、通達に基づく警察から部外への情報提供、弁護士会照会などがあります
(従業員との関係)
・ 入社時の誓約書の徴求や日頃の就業規則の整備 ★ 6頁参照
応募者自身の反社会的勢力の関与等を質問・調査することは許されます
それほど一般的ではないようですが、入社時に誓約書を徴求する、就業規則に「反社会的勢力と関係を持たないこと」等を規定する等も考えられます
・ 従業員の反社会的勢力との関係に関する対応
入社後に従業員が反社会的勢力と関係を持っている場合、時期、関係内容、業務内容を勘案して、就業規則等を根拠に処分をすることが考えられます
過去(特に5年以上前)に従業員が反社会的勢力と関係を持っていた場合には、そのことだけで解雇や懲戒処分をすることは慎重にすべきです

【3 簡単ではない企業のホワイト化】
自社と反社会的勢力との関与を疑われてしまった場合
(企業のホワイト化)
・ 実際には自社は反社会的ではないにもかかわらず、自社と反社会的勢力との関与を疑われてしまった場合には、自社が社会から排除されないよう救済してもらうための取組・方法のことです
自社の直接の取引先自体が反社会的勢力でなくとも、取引開始後にその取引先が反社会的勢力と一定程度関与していることが発覚したのに、漫然と取引を継続していると、自社も反社会的企業として排除されてしまいます
その場合、自社のホワイト化が必要になりますが、簡単ではありません
(実際にあった事例・毎日新聞2014年1月7日朝刊など)
・ 佐賀県内の建設会社であるA社は、当時の代表者が資金繰りのために幼なじみの暴力団関係者から借り入れをしていたこと等を理由に、2013年8月、佐賀県警から、公共事業からの排除要請を受けました
その結果、A社は、公共工事の競争入札の指名停止、受注済みの建設工事請負契約の解除、金融機関の融資停止、資材業者の納入停止等の事態となり、倒産寸前にまで至りました
・ A社は、代表者の交代、暴排宣言、弁護士や税理士や取締役会による経理状況のチェック、第三者委員会による調査報告書の作成と県警提出等を経て、2013年12月、県警から、排除要請を取り下げてもらいました
その結果、A社は、指名停止解除等に至り、再建することができました
(実際にあった事例)
・ B社は個人事業が順調だったので法人成りしましたが、B社が金融機関で法人名義口座を新規開設しようとしたところ、拒否されました
知らない間にB社代表者個人名義預金口座が犯罪に利用されていました
・ B社代表者は、自ら金融機関や警察へ事情を説明しましたが、取り合ってもらえなかったため、弁護士に対応を依頼しました
弁護士が、警察へ、決算書類等の客観的な裏付け資料も付けて、B社代表者の経歴や上記犯罪利用の経緯を詳細に説明して、口座開設禁止を解除するよう求めたところ、一定の期間や費用を要しましたが、警察から金融機関へ口座開設禁止解除を通知してもらうことができました

【ex.1 契約書の暴排条項の例】
(契約書の暴排条項の例)
第○○条(反社会的勢力の排除)
1 甲及び乙は、自らが、暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下これらを「暴力団員等」という。)に該当しないこと、及び次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
① 暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
② 暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
③ 自己、自社又は第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
④ 暴力団員等に対して暴力団員等と知りながら資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
⑤ 役員又は経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
2 甲及び乙は、自ら又は第三者を利用して、暴力を用いる不当な要求行為、脅迫的な言動、風説の流布、偽計又は威力を用いて、相手方の信用を毀損し、又は業務を妨害する行為その他これらに準ずる行為を行わないことを確約する。
3 甲及び乙は、相手方が前各項に違反し、又は第1項の規定に基づく表明および確約に関して虚偽の申告をしたことが判明し、取引の継続が不適切である場合、本契約を何ら催告することなく解除することができる。この場合、相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。
4 甲及び乙は、第4条第1項及び第2項に基づき秘密情報の開示を受ける第三者が暴力団員等又は第1項各号のいずれか一つに該当する者であることが判明した場合、相手方に対し、相当の期間を定め、当該第三者との本契約に関連する契約の解除その他必要な措置を講ずるよう求めることができる。
5 甲及び乙は、前項の規定により、相手方に対し必要な措置を講ずるよう求めたにもかかわらず、相手方が正当な理由なくこれを拒否し、取引の継続が不適切である場合、本契約を何ら催告することなく解除することができる。この場合、相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。
6 甲及び乙は、第3項又は前項の規定により本契約を解除した場合、相手方に損害が生じても、何らこれを賠償又は補償することを要しないものとする。

【ex.2 就業規則の規定の例など】
(就業規則の規定の例)
第○○条(反社会的勢力との決別)
1 当社の社員は反社会的勢力と一切の関係をもってはならない。
2 前項に違反した社員については、就業規則に定める懲戒解雇、その他の懲戒処分に処するものとする。
(誓約書の例)
私(当社)は、暴力団、暴力団関係者、暴力団関係企業、総会屋又はこれらに準ずる団体(反社会的勢力)と関係を持っておらず、将来においても一切持たないことを誓約し、これに違反した場合、解雇や取引停止その他の一切の処分を受けても異議はありません。

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