この記事は2019年5月に配布した顧問企業法務通信から抜粋したものです。
いつも、ご相談、ご活用いただきまして、ありがとうございます。
今回は、ついに2020年4月に施行を控えた改正民法の特に不動産賃貸借について、書かせていただきました。
不動産業者の皆さんは、改正民法が不動産賃貸借に大きな影響を与えることは、既にある程度ご存知ではないかと思います。不動産関係ではない経営者の皆さまも、店舗等の物件の賃貸借は、経営に密接に関連していると思います。
不動産賃貸借において、法律の規定と取引の実態に若干ずれや誤解もありますので、これを機に確認していただければと思います。
【1 改正民法が不動産賃貸借に影響する事項】
保証人について極度額の設定が必要になります!
敷金は明渡し後に原則として返還すべきことが明確化されました
通常損耗は原則として原状回復不要であることが明確化されました
【2 不動産賃貸借の保証と極度額の設定について】
極度額は適切に設定して書面に記載する必要があります
極度額の設定は、口頭の合意では足りず、書面の記載が必要になります
極度額の相場は、賃料の6か月分~2年分に落ち着きそうです
【3 不動産賃貸借の保証と契約更新について】
改正民法施行後に契約更新する場合には極度額に注意が必要です
契約更新時に保証人が賃貸人へ音信不通だったり署名押印を拒否したりしたような場合、それだけでは賃貸人が賃借人へ不動産賃貸借契約を解除や更新拒絶することは、借地借家法の関係でできないものと考えられます
不動産関係の方も一般の経営者の方もご一読いただければ幸いです。
【1 改正民法が不動産賃貸借に影響する事項】
保証人について極度額の設定が必要になります!
(改正民法の不動産賃貸借全体への影響~時期・概要~)
・ 施行時期について
改正民法は基本的に2020年4月から施行(適用)されます
・ 敷金について
敷金は明渡し後に原則として返還すべきことが明確化されました
・ 原状回復について
通常損耗は原則として原状回復不要であることが明確化されました
・ 不動産賃貸借の保証について【重要】
極度額(保証人の責任上限額)を設定して書面に記載すべきことや、事業用物件に関する賃料滞納等の情報提供義務が、創設されました
・ 物件の修繕について
例外的に賃借人が修繕できる場合があることや、物件が使用不能となった部分に応じて賃料が一部減額されること等も、創設されました
・ その他
従来の判例の考え方について、明文規定が置かれ、明確化されました
パンフレット等は「法務省 民法改正 賃貸借」で検索してみてください
法務省パンフレット(民法改正・賃貸借)
http://www.moj.go.jp/content/001289628.pdf
(改正民法の不動産賃貸借の保証への影響)
・ 極度額の書面記載が必須に!
改正民法は不動産賃貸借の保証に極度額の書面記載を必要としました
不動産賃貸借のように、主債務者(例:賃借人)が債権者(例:賃貸人)へ支払う金額が確定していない契約に関して、法人ではなく個人が保証人となる場合を個人根保証と言います
改正民法は、個人根保証(例:不動産賃貸借の個人の保証人)について、保証契約書(例:不動産賃貸借契約書等の保証人が署名押印すべき書面)に極度額(責任上限額・例:100万円)の定めが必要になります
施行後、書面に極度額を記載しておかないと、不動産賃貸借の保証は無効となります
なお、単純な金銭の貸し借り(金銭消費貸借契約)のように、金額が確定している契約に関して、極度額の設定はなくても無効とはされません
【2 不動産賃貸借の保証と極度額の設定について】
極度額は適切に設定して書面に記載する必要があります
(極度額とは)
責任上限額であり、不動産賃貸借の保証において、保証人が賃貸人へ責任を負担する金額の上限(限度額)のことです
例えば、月額賃料6万円の物件で極度額を10万円と設定していた場合、3か月分の賃料滞納と室内汚損があったときには、賃貸人は、賃借人に対し、滞納賃料18万円と清掃費用5万円の合計23万円が請求できますが、賃貸人は、保証人に対し、極度額の10万円までしか請求できません
(極度額の設定方法について)
極度額の設定は、口頭の合意では足りず、書面の記載が必要になります
実際には、不動産賃貸借契約書の頭書の契約条件欄や末尾の署名押印欄の付近に極度額を記載したうえで、保証人が署名押印することになりそうです
極度額の書面の記載がなければ、不動産賃貸借の保証は無効になります
(極度額の設定金額について)
極度額をどの程度の金額に設定すべきか、今後の検討課題ですが、現状の家賃保証会社の極度額が概ね賃料の6か月分から2年分までですので、不動産賃貸借の保証の極度額もその程度に落ち着くのではないかと思います
なお、賃料滞納のことだけ考えれば6か月分で足りると思いますが、室内汚損時の原状回復(通常、数十万円)や事故物件時の逸失利益(通常、賃料の1~2年分)を考えると2年分が欲しいところです
また、若干難解な議論になりますが、賃貸人と家賃保証会社との間の契約内容によっては、家賃保証会社が賃借人に代わり賃貸人へ滞納賃料等を支払った後、家賃保証会社が賃貸人より優先して保証人へ求償することも考えられますので、保証人の極度額が家賃保証会社の極度額より多くないと、賃貸人自身は保証人へ請求できなくなることも考えられます
とはいえ、極度額を極端に高額にすると、保証人がつかずに契約できない事態や、保証自体が公序良俗違反や消費者契約法違反で無効とされる事態も考えられますので、やはり賃料の6か月分~2年分に落ち着きそうです
参考資料・平成30年3月30日国土交通省住宅局住宅総合整備課
https://www.mlit.go.jp/common/001227824.pdf
【3 不動産賃貸借の保証と契約更新について】
改正民法施行後に契約更新する場合には極度額に注意が必要です
(現時点(改正民法施行前)の契約更新について)
・ 現時点で契約更新する場合には極度額に注意する必要はありません
例:2017年10月1日契約・期間2年・保証人あり・極度額記載せず
2019年10月1日契約更新・極度額記載せず
・ 上記事例では、2020年10月に同年7~9月分の滞納賃料を、賃貸人が保証人へ請求することは、可能です
(2020年4月以降(改正民法施行後)の契約更新について)
・ 施行後に契約更新する場合には極度額に注意する必要があります
例:2017年10月1日契約・期間2年・保証人あり・極度額記載せず
2019年10月1日契約更新・極度額記載せず
2021年10月1日契約更新・書類は交わしたが極度額記載せず
・ 上記事例では、2021年10月に同年7~9月分の滞納賃料を、賃貸人が保証人へ請求することは、できないものと考えられます
なぜなら、賃貸人と保証人の間で契約更新の書類を交わす以上、極度額の記載がないままだと、保証は無効であると考えられるからです
・ なお、上記事例と若干異なり例えば2021年10月1日に賃貸人と保証人の間で契約更新の書類を交わさなかった場合には、別途検討が必要です
( 若干難解な議論になりますが、厳密には、判例法理(自動更新後の契約期間に関して保証人は賃貸人に対して原則として責任を負う)に照らせば、施行前の保証契約として保証が有効であると考える余地があります
賃貸人が保証人へ契約更新の書類を交わすことができなかったときには、上記判例法理を援用して責任追及する余地がありますが、特にこのような場合には弁護士等に相談されることをお勧めします )
(契約更新時の保証人の署名押印拒否について)
なお、賃貸人が保証人へ契約更新のために極度額の記載した書類を交わすよう求めたのに、保証人が賃貸人へ音信不通だったり署名押印を拒否したりしたような場合、それだけでは賃貸人が賃借人へ不動産賃貸借契約を解除や更新拒絶することは、借地借家法の関係でできないものと考えられます
そのうえで、賃料滞納等が発生したときの考え方については、若干難解な議論になりますので、弁護士等に相談されてみると良いと思います