従業員の不祥事の予防と初動対応

この記事は2019年2月に配布した 顧問企業法務通信から抜粋したものです。

いつも、ご相談、ご活用いただきまして、ありがとうございます。

さて、経営者の皆さまにとって、従業員の方々の尽力は、日ごろの業務に欠くことができないものであることは言うまでもありません。他方で、大手企業の飲食店の従業員の不祥事による会社の名誉毀損・信用失墜が、連日報道されています。
数年前、中小企業の飲食店の従業員が、店内で什器備品をふざけて不衛生に扱う様子の動画を撮影・公開したことで、会社が倒産した事例もあり、必ずしも会社の規模に関係なく、会社にとって従業員の不祥事はいつも悩ましいものです。
ときには、取引停止、指名停止、融資停止等に至り、重大な損失となることもありますし、役員が株主から監視監督義務違反を追及されることもあります。
そこで、今月は、従業員の不祥事の予防と初動対応について、書いてみました。

【1 従業員の不祥事の類型と具体例】
様々な従業員の不祥事を確認してみましょう

【2 従業員の不祥事を予防するには】
宣言・規則から、業務分担、リスク管理部門設置、監査・通報・教育まで

【3 発生時の初動対応と懲戒処分】
冷静な証拠収集と事実認定、適正手続、比例原則が求められます

日ごろから地道に体制構築・意識付けして予防するとともに、従業員の不祥事が発生した場合、内容や程度に合わせた適切な初動対応を行うことが重要です。
ご多忙とは思いますが、ご一読いただき、御社の従業員の不祥事の予防と初動対応を確認するきっかけとしていただければ幸いです。

【1 従業員の不祥事の類型と具体例】
様々な従業員の不祥事を確認してみましょう
(職務上の不正行為)
・ 手当の不正受給、経費や備品の私的流用、集金の着服
・ 不正・過剰な金品(リベート、キックバック)の要求・授受
・ 回収が明らかに見込めない業者との取引の開始・継続
・ 不正の共同実行・黙認・隠蔽
(パワハラ・セクハラ)
・ 職場における暴力、暴言、無視、過大要求、過小要求、私的領域干渉
・ 職場における性的な言動、接触、強要、盗撮
(会社の名誉毀損・信用失墜)
・ 重大な犯罪行為による検挙・実名報道
・ 職場における不適切行為のSNS投稿
・ 顧客情報のSNS投稿
・ 所属企業表示の個人アカウントにおける不適切表現のSNS投稿
(秘密保持義務違反・競業避止義務違反)
・ 会社の営業秘密(技術情報や顧客情報)の社外漏洩
・ 同業他社へ転職したうえで、社員の引き抜き、顧客の持ち去り
(SNS投稿以外のITに関連する従業員の不祥事)
・ 個人情報の社外漏洩
・ 有料ソフトウェアの不正コピー
・ 写真やイラスト等の素材の無断使用
・ 通販広告における不当表示
(私生活上の非違行為)
・ 職場外における傷害、窃盗、痴漢、違法薬物使用、飲酒運転、交通事故等
・ 反社会的勢力との関与

【2 従業員の不祥事を予防するには】
宣言・規則、業務分担、リスク管理部門設置、監査・通報・教育
(コンプライアンス宣言、就業規則や社内規程の整備、周知、運用)
・ コンプライアンス宣言で全社的に法令遵守に取り組むことを浸透させる
・ 就業規則で服務規律や懲戒処分を規定して、周知、運用する
・ 社内規程で具体的な取扱を規定して、周知、運用する
(情報に関する社内規程の例)
→ 「文書管理規程」:重要な情報を文書化し、適切な管理者に一定の期間保存・管理させる(情報の文書化の義務、管理対象となる文書の特定、管理者、保存期間(廃棄手順)等)
→ 「情報セキュリティ管理規程」:作成者に文書・データの機密性のレベルを判断させ、その機密性のレベルに応じて異なるルールで管理させる(「取扱注意」「社外秘」等の分類、複製の可否、交付の可否等)
→ 「SNSポリシー」:基本方針、会社の機密情報の保護、他人の著作権等の保護、顧客や取引先の情報の保護、誹謗中傷の禁止、真偽不明な情報発信の制限、自社関連情報発信の制限、投稿者の責任の確認等
(リスク管理に関する社内規定の例)
→ 「リスク管理規程」:経営上の様々なリスクにつき、監視・分析すべきリスクを選定して、それぞれのリスクにつき、適切な管理者に、監視・分析、監視・分析の結果報告、意思決定をさせる
(適切な業務分担のための規程整備や組織再編)
・ 機動性を喪失しない程度に業務を分担させて相互監視を機能させる
・ 従業員数がすくない会社でも、定期的に上司が担当者を監督する
(リスク管理部門設置のための規程整備や組織編成)
・ リスク(特にコンプライアンスリスク)の監視・分析等を行う部門を設置して、リスクの原因や背景を検討・分析したり、リスクが顕在化した場合の危機管理対応をしたり、再発防止策を検討・実施したりさせる
(内部監査、内部通報、教育)
・ リスク管理部門と連携して内部監査を実施する
・ 内部通報制度を構築する
・ 規程周知や啓発等の教育を実施する

【3 発生時の初動対応と懲戒処分】
冷静な証拠収集と事実認定、適正手続、比例原則が求められます
(従業員の不祥事の有無が疑わしい場合の初動対応)
・ 安易・拙速な追及は証拠隠滅等を招きかねない
主に、職務上の不正行為、パワハラ・セクハラ等では、従業員の不祥事の有無が疑わしいことが多いようですが、客観的な証拠がないまま会社が従業員を問いただすと、証拠を隠滅されて否認されてしまうことで、追及が困難になることがすくなくありません
・ 客観的な証拠等の収集により慎重に事実認定をする必要がある
そのため、客観的な証拠(例えば、領収書、振込依頼書、録音、録画。)や関係者の証言(例えば、不正に協力するよう求められたとの証言、日々のパワハラの被害状況の日記。)等を事前に確保して、否認されても従業員の不祥事を立証することができるか、十分に検討しておく必要があります
・ 放置は許されない
立証が容易ではない、当事者間の問題である等として、早期に丁寧な調査を尽くさず、適正な配置換え等もせず、放置すれば、不正や被害が横行するでしょうし、もし関係者が社会に不正や被害を公表すれば、会社の名誉毀損や信用失墜等の深刻な事態ともなりかねませんので、放置は許されません
(従業員の不祥事の存在が明らかな場合の初動対応)
・ 早期の対外広報が必要になることも
特に、会社の名誉毀損・信用失墜、私生活上の非違行為等では、会社が、世間一般に対し、速やかに、謝罪、事実の公表、原因の説明、再発防止策の策定等の対外広報をすることが、必要になることもあります
(懲戒処分の適正手続や行為と処分の均衡)
・ 告知と聴聞、比例原則
従業員の不祥事が存在するものとして一定の処分を科すときには、原則として、具体的な事実や処分について、告知して意見を聴く必要があります
私生活上の非違行為である場合や、指導処分歴が乏しい場合は、法的には戒告等の軽い処分にとどめるべき場合もすくなくありません
・ 文書化・記録化の重要性
日ごろから、現実的に可能な範囲で、各種規程の整備、監視・分析の記録、書面による指導処分等、文書化・記録化しておくことが重要です

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